多重人格って何?解離に関して・症状・統合失調症との違い原因診断
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治療

目標・原則・治療の原型

過去の多重人格の治療では、解離した多重人格の融合・統合が大切な目標とされていました。

しかし、現在は「本人の今、直面している困難の解決」が大事とされています。

それぞれの自我同一性に協力して困難に立ち向かうよう自覚させ、統御できる能力を多重人格の人へ身に付けさせるのです。

中には、多重人格が人生を生き延びていくための手段であると考え、そのままでいたいと希望する人もいます。

治療の目標は本人が決めるものであり、その希望は治療する人に尊重される必要があるのです。

治療は原則として、個人での心理療法が行われています。

心的外傷(トラウマ)を扱う必要があり、治療が再外傷体験となる場合があります。

治療を受ける時は、このことに注意しておくといいでしょう。

治療する人の間でも、気をつけるようにされています。

そして、PTSD(外傷後ストレス障害)の治療過程に沿って行われることが多いです。

多重人格がPTSDと、強い関係を持っているためでしょう。

詳しくは、「原因」の章にある「虐待とPTSD」でご紹介しています。

この治療過程については、ジュディス・ハーマンが次のように分けています。

第一段階:安全の確立

第二段階:回想と服喪

第三段階:通常生活との再結合

(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、266 なお、元は「Herman,1992」)

これを元にして主張されている治療過程については、「治療過程」で詳しくご紹介しています。

注意されること1

《治療目標の選択と、進めるスピード》

実際に治療を体験した人達は「非常に辛い」と語ることが多かったです。

生き延びるために思い出せない場所に置いた心的外傷(トラウマ)は、細かく練られた治療に対しても大きな影響を与え得るのです。

治療する人は本人の状態に気を遣いつつ、治療目標や進めるスピードを決定します。

ただ、「非常に辛い」とした声から、治療に対して恐怖を抱くことは状態を悪化させるでしょう。

大切であるのは「どういう治療かあらかじめ、少しでも知っておくこと」です。

「非常に辛い」と語った人の中には、「あらかじめ知っておけばよかった」とも語っている人が結構いました。

なお、治療目標については「目標・原則・治療の原型」でも詳しくご紹介しています。

《交代人格の取り扱い》

治療する人は、各交代人格の取り扱いに違いを持たせるべきではないと言われています。

交代人格のあるままでいいとする人もいますが、ほとんどはこの状態を解決したい人でしょう。

そのため、交代人格が別の存在だと思わせるのではなく、「解離による困難の解消と統御能力をしっかり身につけさせること」が治療の目標となっているのです。

《蘇った記憶》

心理療法を始めると、多くは幼児期に受けた虐待の記憶を取り戻します。

これに関して、アメリカ精神医学会やオーストラリア精神医学会は、次の発表をしています。

1. 思い出せなくしてから長い年月が経っても、正確な記憶を思い出せる状態にすることはできる

2. 年月の経過によって記憶の正確さを検証できないため、一部の人が実際とは違う記憶を作ってしまっている可能性も否定できない

多重人格の人が外傷性記憶を語り始めた場合は、「患者の語る真実」として傾聴され、治療する人による真偽の確認や細部の究明は「治療行為」として合わないと言われています。

多重人格の人自身が、自分の記憶を再評価する余地を残しておくのです。

《家族との関わり》

多重人格になる原因の1つに、児童虐待が挙げられています。

これについては「原因」の章にある「虐待とPTSD」で詳しくご紹介しています。

児童虐待を起こしたのは、原家族の関係している場合があります。

そのため、原家族に対して反発や愛着、実際と違った認識の生じている場合もあるのです。

治療する人はもし可能であれば、家族と会うなどして本人との関係を改善していくよう努めた方がいいとされています。

注意されること2

「注意されること・1」では、次に挙げる4つの注意について詳しくご紹介しています。

《治療目標の選択と、進めるスピード》

《交代人格の取り扱い》

《蘇った記憶》

《家族との関わり》

《自分から「多重人格だ」と名乗って来院した人》

自分から「多重人格だ」と名乗って来院する人もいます。

多重人格は、解離性障害の1種です。

これについては「解離に関して・症状・統合失調症との違い」の章にある「解離と解離性障害」で詳しくご紹介しています。

解離性障害の原因となるような外傷性記憶は本来「健忘」されているため、語られにくいです。

また、多重人格の人は気づかれないよう、注意深く振舞っていることが多いです。

自分から「多重人格だ」と名乗って来院した人にも、受容的になって訴えを聞くようにされています。

その場合、薬物やアルコール摂取の影響・意識でも無意識でも、病気になることで他の何かを得ようとしていないかを踏まえて冷静に分析する必要があるのです。

コリン・ロスは多重人格の原因の1つに「虚偽性障害経路」を挙げていました。

なかったにも関わらず「ある」として、多重人格を作ってしまうのです。

訴訟が絡んでいる患者の場合は、とくにこのことに注意されています。

《やり過ぎなくらいの依存と退行の予防》

多重人格の人は余分な治療・身体的接触の要求、治療の時にした約束の違反を行うものもいます。

こうなるのはもともと、人間関係に悩みを抱えていたためです。

治療する人を他のものと比べものにならないような存在とみなし、やり過ぎなくらいに依存・退行したり、治療している人を「虐待している人」と考えたりすることがあります。

充分に治療計画を練って、本人と相談した上で進めたとしても、なり得ます。

何を伝えようとしているか判断し、何回も続く場合は治療全体を見直すこともあるのです。

考えるべきとされているのは「多重人格の人がもっともいい状態になること」であり、治療する人はいつも道徳的な基準に則る必要があると言われています。

《治療する人へのメンタルヘルス(精神衛生)への配慮》

治療の際は多重人格の人のみならず、治療する人の外傷性記憶も思い出されてしまう可能性があります。

このようなこともあるため、秘密を言わないでくれる仲間内で支え合う環境を作り、治療する人の、メンタルヘルスを保つよう配慮されることも必要です。

治療過程

多重人格の治療は、PTSD(外傷後ストレス障害)のものを原型としています。

ジュディス・ハーマンは、この治療を3つに分けました。

これについては、「目標・原則・治療の原型」で詳しくご紹介しています。

多重人格の治療過程は、次から書く通りです。

《第1段階:予備としての介入と安全の確立》

確定診断・告知・診断の共有を行います。

確定診断については、「診断」の章にある「人格交代の徴候・他の診断過程」で詳しくご紹介しています。

治療する人は概要を説明し、同意を得ます。

同意を得てから、治療は始まるのです。

多重人格の人と治療する人の間には、治療契約が結ばれます。

外傷体験は「自我の境界を無理やり破ったもの」とされていることが多いため、治療が同じものでないと理解してもらう必要があります。

「契約」という安全で堅固な枠組みで治療の詳細を決定することにより、本人を守るのです。

契約の内容は場合によってですが、面接に関してリチャード・クラフトとフランク・パットナムは「週2回の90分面接」を推奨しています。

契約書の署名は責任の取れる人格にさせ、それぞれに行動への連帯責任を自覚してもらいます。

お互いに日記や掲示板を利用し、コミュニケーションし合えるようにするのです。

このように、第1段階では早まった外傷想起をせず、安全確保から始められます。

《第2段階:回想と服喪による、心的外傷(トラウマ)の消化》

外傷性記憶を思い出し、消化していきます。

そのため、外傷性記憶によるさまざまな影響の表れる場合があります。

他の交代人格や他人のした体験と思ったり、混乱や激しい感情の表出があったりするのです。

現在の困難が語られる時、同じような外傷性記憶が思い出されることもあります。

治療する人は日常生活で起こるこのような危機的状況への、さまざまな対処法を身につけさせる必要があるのです。

それを踏まえて、本人を尊重した治療は外傷性記憶の意味を理解することへ進みます。

再外傷体験とならないよう、行われるのです。

治療する人たちも、語られる生育暦や外傷性記憶を「非常に辛いもの」と感じています。

その中で、「多くの辛い経験をしてきたのに、ここまで頑張って生きてきた事実」があると気づきます。

人一倍辛さを耐え抜いてきたと、自信を持っていいのです。

心的外傷の消化によって症状が改善され、訴えていた困難が解決するかもしれません。

ただ、2つのことに注意してください。

1. 「非常に辛い心的外傷を処理し、生き延びる手段」とも考えられる解離状態でなくなること

2. 低く自己評価する感覚や、人間関係を上手く築けず適応しにくいと感じる気持ちが残り続けるかもしれないこと

なお、訴えていた困難の解決が何かは、人によってです。

交代人格のいるままでもいいとする人など、人格を融合・統合する以外の状態で「解決」

とする人もいるのです。

《第3段階:社会へ新しい一歩を踏み出させる》

訴えていた困難が解決すれば、次に考えられるのが「本人と世界の新しい関係」です。

どうやって社会への1歩を踏み出していくかが話し合われるのです。

以上です。

治療を終えそうな人が心配することなく新たな1歩を踏み出せるよう、社会の整っている必要があります。

催眠療法

多重人格の治療には、催眠が有効とされてきました。

国際解離研究会(ISSD)は、その効果を次のように挙げています。

1. 突然起こったフラッシュバックを終わらせ、現実に気づかせる(催眠を解く)

2.次にセッションするまでに危機が起こっても、安定していられるよう自我を強化させる

3.激しい感情の表出を安全な表現に変えるトレーニング

4.心的外傷(トラウマ)から来る身体症状を和らげる

5. 人格を融合・統合する時に行う、「儀式」としての催眠

ただ、「悪影響を与える」とする指摘もあります。

実際とは違う記憶に間違ったラベルを貼ること・良くない幻覚や急激な外傷性体験を招くこと・本人が依存しすぎるようになり、回復への意欲を減退させることなどが起こるのです。

これらの出来事は、催眠のやり方が充分でなかったことから起こる場合もあります。

たとえば、最初に挙げた出来事はコリン・ロスが多重人格になる原因の1つとした「医原性経路」に関係しています。

この経路を起こさないよう、催眠下での誘導するような質問は避けられるのです。

充分な催眠をするために、催眠の効果と目的を的確に説明し、本人の同意を得て行います。危険性や限界を知った上で、催眠は慎重に行うべきとされています。

岡﨑順子は自分が使ったことのある催眠を用いた治療法として「自律訓練法」「呼吸法」「イメージ療法」「良性のトランス状態」を挙げています。

イメージ療法の例の1つには「ビデオ画面を操作することのイメージ利用」があり、画面に映る過去を自由に操作できるようにします。

操作できないと感じていた外傷性記憶の入りこみを、操作できるようにするのです。

芸術・薬物・集団心理・入院療法

《芸術療法》

多重人格の人の衝撃的な外傷体験は、脳でうまく処理されずに「映像」として留まっているとする説があります。

それを裏づけるかのように、外傷性記憶は「イメージの侵入」として訴えられることが少なくないです。

心的外傷(トラウマ)の消化を安全で効果的にするため、中井英夫は箱庭療法を薦めています。

岡﨑順子は「――――持ち運びのできる箱庭――――」(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、271)と言われているコラージュ療法を初め、スクイグル・風景構成法・自由画を用いたことがあると言います。

《薬物療法》

体の病気ではないのに、そのような症状が出る・激しい行動や交代人格の出現の抑制・不安・不眠を抑制するために薬は使われていますが、有効性は確立していません。

治療の中核となる心的外傷や多重人格状態は、薬で解消できないのです。

交代人格によって表に出やすい症状や薬の効果は異なり、薬物依存や自分を傷つける目的で薬を溜めこむ人格も存在します。

自分を傷つける行動に結びつかないよう、さらなる研究の望まれている状態であるのです。

《集団心理療法》

多重人格の治療におけるこの療法は、有効性が疑問視されています。

心を許せず、近づかなかったり近づけなかったりする人もいるのです。

それぞれに潜んでいる場を乱す可能性は、新たな可能性を切り開く力と紙一重になっています。

これは日常で人間関係を築く時、誰にでもあることです。

言い換えれば、新たな可能性を切り開く可能性も「事実」なのです。

本来、簡単に理解されない悩みを抱えている人には、同じ悩みを共有し合えるグループのあった方がいいです。

このため、「多重人格と向き合う」の章にある「多重人格の人同士のグループ」で、設置されたグループ例を2つ詳しくご紹介します。

この内、1つは現在も発行され続けている日本の交流機関誌です。

サイトへのリンクも、ございます。

細心の注意を払いつつ、集団心理療法の可能性は両面から考慮する必要があるのでしょう。

《入院療法》

多重人格の治療は基本的に外来で行われ、必要に応じて入院治療をするようにしています。

交代人格に代わることの影響から他の人とうまくいかない場合もあり、大変なことが多いと言われます。

そのため、きちんとした治療契約が必要とされるのです。

治療する人は改善の意欲を引き出させて自立できるようにさせること、多重人格の人は人格同士でルールを守ることが求められます。

多重人格の臨床像

1920年代以来にあまり見られなくなっていた多重人格の臨床像は、1970年代以降ふたたび多く報告されるようになりました。

ここでは、その像を詳しくご紹介します。

《年代と男女比》

多重人格は30代に多く見られ、男女比は約1:9と女性が圧倒的に多いと言われています。

ただ、本当はこれほどの差がないのではと指摘されているのです。

これについては「多重人格と現代社会」の章にある「多重人格と男女差」で、詳しくご紹介します。

《交代人格に関して》

交代人格のタイプでとくに多く見られるのは「子どもの人格」「さまざまな年齢の人格」「保護してくれる人格」「迫害する人格」です。

「異性の人格」もまた、多く見られます。

交代人格間での健忘は約94.9%で、多くは「健忘障壁」によって隔てられています。

ただ、幻聴などから少しでも、もう一方の存在に気づいていることが多いです。

交代人格は抑うつ状態や薬物依存、強迫性障害のような精神的なものを、それぞれに抱えている場合が多いです。

刺激への反応やアレルギー、薬の効果など生理的・身体的な反応も交代人格によって違います。

このことは薬物療法があまり行われない理由にも、関係しています。

《「問題」とされる行動・反社会的行動》

自殺しようとすること・自分を傷つけること・精神を活性化させる物質の乱用などが当てはまり、しばしば見られます。

とくに最初の行動は約72%見られ、内2.1%は亡くなっています。

他にも反社会的行動として犯罪行為や売春が見られ、刑に服していた場合もあります。

ただ、これらの行動が見られる人の割合は少ないです。

以上です。

多重人格の臨床像は多種多様な症状・「問題」とされる行動を示すことが特徴です。

このことはヒステリー神経症・解離タイプの神経症水準から、境界性人格障害や統合失調症(精神分裂病)に近い水準のものまで、幅広い度合いの多重人格が含まれていることを意味しています。

治療中・治療後の経過

国際解離研究会(ISSD)から1997年にされた報告によると、治療中・治療後の経過は次に引用した通りです。

なお、数字の表記を変更し、一部を省略しています。

1. 一部のDID(多重人格の別名「解離性同一性障害」の略称――こちらで書いた注)患者は、2~3年の集中外来治療後、内部の隔たりの感覚を減じ、比較的安定した状態に達した。

2. 大半の患者は症状の改善・回復まで確定診断後3~5年を要した。

3. 重篤なⅡ軸病理(人格障害や精神的な遅れ――こちらで書いた注)や、他の重要なcomorbid(併存している――こちらで書いた注)精神障害をもつ患者は、緊急時の短期入院措置を含め、6年以上の年月が必要である。

(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、276~277)

引用した報告からは、治療に長い年月のかかることが分かります。

ただ、このことから治療に対して不安を抱くのは、状態を悪化させるでしょう。

大切なのは「どういう治療かあらかじめ、少しでも知っておくこと」です。

このことは、「注意されること・1」でもご紹介しました。

普段多重人格に関わっていない人も、このことを知っておいた方がいいでしょう。

一般に健忘や遁走などといった解離状態のそれぞれのエピソードについては治療後の経過がよいとされていて、治療が成功した場合はとくにそうなると言われています。

このようになって、初めて訴えていた困難を解決した本人は、自分が自身の人生における主人公になったような体験をするのです。

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