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多重人格の図書館本
多重人格って何?
病名の変化
みなさんは、二重人格を含む「多重人格」(Multiple Personality Disorder:MPD)の別名を知っていますか?
それは、解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder:DID)です。
この名は、1994年に『DSM-Ⅳ』(『精神障害の診断・統計マニュアル』第4版)から使われ始めました。多重人格について調べたい場合は、この名も知っておくといいでしょう。
では、この名に使われている「解離性」「同一性」とはなんでしょうか?
解離性とは「解離性障害」の言葉から来ています。多重人格は、この1種です。
これと解離については、「解離に関して・症状・統合失調症との違い」の章の「解離と解離性障害」で詳しくご紹介します。
そして、同一性は「自我同一性(アイデンティティ)」を表しています。言い換えれば、解離性同一性障害は「解離性のある、自我同一性に関したもの」となります。
この名称を新たに使うことで、多重人格の特徴がより明らかになったのですが、現在でも「多重人格」の言葉は広く使われています。
なお、二重人格は「多重人格」と表される前の名として使われてもいました。たとえば、イアン・ハッキングは『記憶を書きかえる――多重人格と心のメカニズム』でルイ・ヴィーヴを挙げています。
彼は、はっきり区別のつく2つ以上の人格を持っていましたが、1885年になるまでは「二重人格」とされていました。
著者は本の中で、彼を「最初に「多重人格」とされた人物」と書いています。
古典的・現代的多重人格
多重人格は19世紀末から20世紀初めまで、盛んに研究されていました。しかし、1920年代からはしばらく、その動きが衰退することとなりました。
ふたたび盛んとなったのは、1970年代です。
この時期の研究により、1920年代以前にも考えられていた多重人格と心的外傷(トラウマ)の深い関係が、明らかになりました。
一丸藤太郎は『臨床心理学大系 第17巻 心的外傷の臨床』で、多重人格に見られるタイプを、「古典的多重人格」と「現代的多重人格」に分けました。
まず、古典的多重人格は二つのタイプに分けることができます。
- 慢性的、または急激な強いストレスからの「心的エネルギーの低下」が原因
- 対象喪失、性被害からの心的外傷が原因
1については次の通りです。
《原因の具体例》
結婚生活や親の介護
《交代人格(もっとも頻繁に体を動かす「主人格(ホスト)」以外の人格)の数》
2~3
《治療方法》
短期間の休息で比較的治る
一方、2については次の通りです。
《原因の具体例》
対象喪失は失恋や大切な人の死、性被害はレイプ
《交代人格の数》
2~5
《一緒に出る症状》
ヒステリー・パーソナリティー(わざとらしい・おおげさの特徴を持つ人格)
抑うつ
解離性症状
《一緒に出る行動》
自殺を考える
自分を傷つける
《背景》
ヒステリー・パーソナリティーのような特有の人格傾向
特有の生育環境・生育歴
※当てはまる生育環境の具体例
- 親がやさしい人になったり、暴力的な人になったりする
- 親がやり過ぎなくらいに道徳的であることを求めるのに、その親が反した行動をしている。
- 大家族
※当てはまる生育歴の具体例
- 頻繁に住む場所を変える
- 経済環境が急に変わる
- 母親とじゅうぶんな信頼関係が築けず、代理となった人が死んだ
- 親友の死
- 失恋
《治療方法》
治療する人が特別に働きかけなくても、心理療法で治せる
一方、現代的多重人格は、次の通りです。
《原因》
性的・身体的虐待を中心とした、幼児期からの長期にわたる虐待
《交代人格の数》
6~
《一緒に出る症状》
シュナイダーの第一級症状
境界性人格障害など
《一緒に出る行動》
自殺を考える
深刻なくらい自分を傷つける
暴力
犯罪
やり過ぎなくらい、性的に逸脱した行動など
《治療方法》
特別な働きかけを積極的にする
心的外傷への心理療法
薬物療法
危機にあう場合の入院治療
原因は古典的多重人格のタイプ2に似ていますが、幼児期にあったか・長期かの部分に違いがあるでしょう。
1970年代以降に報告された多重人格は、おもに現代的多重人格です。