適応障害とは?
適応障害とは、ストレス障害に分類される精神疾患の一つです。
ストレス因子により、日常生活や社会生活、職業、学業的機能に著しい障害が起きて、一般的な社会生活ができなくなるストレス障害になります。
急性ストレス障害や、PTSDなどと同じように、外的なストレスが原因となって起こるストレス障害ですが、急性ストレス障害やPTSDに見られるような、生死に関わる強大なストレスに限らず、家族関係や仕事のトラブルなどもストレス因子となりえます。ストレスの量が本人の処理能力を圧倒したことによる心理的な機能不全なので、治療では、原因となる状況の改善が必要になります。
症状は、実に様々あります。たとえば、不安、抑うつ、焦燥、過敏、混乱などの症状のほかに、不眠、食欲不振、全身倦怠感、疲労感、ストレス性胃炎、頭痛、吐き気、発熱、精神運動抑制などの身体的な症状も現れます。身体的な症状のみが現れる場合もあり、精神科や心療内科以外の病院では、適応障害は見逃されがちです。吐き気や頭痛などの症状があるにもかかわらず病院で異常なしと診断された場合は、適応障害だということも考えられますので、精神科や心療内科を訪ねてみるといいでしょう。
適応障害とストレス
適応障害という病名を聞いて、皇太子妃の雅子様のご病気を連想される方もいるかもしれません。近年では、適応障害という病名は、広く知られるようになり、その症状にも関心が寄せられています。
適応障害は、辛い状況に直面して精神的に参ってしまった状態といえます。現代社会ではストレスを感じることが多く、誰でも「仕事がつらすぎる」とか、「学校の校則が厳しい」とか、「お隣の犬がうるさい」などいろいろなことをストレスと感じることがあるでしょう。
誰でも、大きなストレスを受けると、平静を保つのは難しく、ストレスから適応障害になると、憂鬱な気分や不安が強く出てしまいます。そして、普段の自分ではなくなり、投稿拒否やひきこもりの原因となったり、些細なこと、言い争いをしてしまい、人間関係を壊してしまったりします。
適応障害の原因となっているストレスが慢性的に続いてしまうと、うつ病など、さらに深刻な精神疾患に移行してしまうこともあります。ですから、もし、ストレスを毎日感じているとか、とても強く感じているという場合、あるいは、「普段の自分ではない」と感じた場合、仲の良い人や信頼している人、あるいは医師に相談するようにしましょう。
適応障害の症状
適応障害には、いくつかの症状があります。
ストレスが原因で、情緒的な障害が発生し、その障害に抑うつ気分や不安などを伴うことが多いです。また、青年期や小児期の場合は、行為障害や夜尿症、指しゃぶりなどの退行現象が現れます。
また、ストレスが原因で、社会生活や職業や学業などにも支障をきたし、生活機能が低下したり、業績や学力が低下したり、場合によっては、重症になると、就業や修学ができなくなる場合もあります。
抑うつ気分や不安などの情緒的な障害によって、声を荒げたり、泣き出したりすることもあります。それだけでなく、摂食障害や動悸、ふるえ、けいれん、頭痛、肩こり、倦怠感などの身体的な不調を起こすことも多くあります。
行動的な障害を伴う場合は、ストレスが原因で普段とはかけ離れた著しい行動に出ることがあります。しかし、患者さん本人は、その著しい行動に、懸念や自責の念は持たないことが多いです。そして、それらのかけ離れた行動の具体例としては、アルコール依存、万引き、虚偽の発言、睡眠時間の極端な変化、過度な攻撃性による喧嘩、喫煙の開始、無銭飲食、無銭乗車、借金返済の拒否、規則違反などが上げられます。
適応障害の診断
適応障害は、精神疾患の中でも、非常に診断基準が難しい病気になります。ここでは、いくつかの診断基準をご紹介します。
まず、はっきり確認できる大きなストレス、断続的で反復的に感じるストレスが発症の原因で、そのストレスを受けてから、1~3カ月以内に、情緒面や行動面での症状が出てきます。
そして、ストレス因子と接したときに起きる予測を超えた苦痛反応が著しいことが、診断基準になります。社会生活や職業・学業生活に障害が起きていることも、適応障害の診断に含まれます。
また、適応障害は、不安障害や気分障害、うつ病などの既存の病気が原因ではなく、ストレスが死別反応などによるものではない場合に当てはまります。
そして、もし、ストレス因子が排除された場合、半年以内に寛解した場合は、適応障害になります。ただし、ストレス因子がなくなった後も、半年以上症状が続く場合は、PTSDなどの他のストレス障害や、特定不能の不安障害である可能性もあります。
そして、症状の持続時間が半年以内の場合は急性適応障害といわれ、半年以上続くものを慢性適応障害といいます。慢性適応障害の場合は、継続的なストレスが続いている場合に適用されます。
適応障害のさまざまな治療
適応障害の治療で、抑うつ感や不安感がある場合は、抗うつ剤や抗不安薬を使用します。また、薬物治療だけではなく、精神療法によって、ストレス脆弱性の体質改善も効果があると言われています。
もっとも、適応障害の原因はストレスです。ですから、原因となっているストレスを除去したり、あるいは軽減したりしないかぎりは、適応障害の様々な症状が再発する可能性が高いです。
原因となっているストレスを除去すれば、時間が経つにつれて、適応障害の症状はよくなり、通常、半年以内に回復します。
また、もし医師の診断で適応障害だとうことが分かったときは、まずは患者さんの本人の心に根付いているストレスそのものを改善する必要があります。医師やカウンセラーと話をして、症状の元になっている原因を見詰め直しましょう。適応障害の場合は、信頼できる人と話をするというだけでも、ずいぶん気持ちが楽になります。
気分の落ち込みや不安感が強いときには、薬物治療も併用します。
適応障害は、他の精神疾患と比べると、予後は良好で、逆にストレスが完成的に続いてしまうと、うつ病などの深刻な病気へ移行してしまうことがあります。そうなる前に、診察を受けるようにしましょう。
適応障害と似ている病気
適応障害によく似ている精神疾患があります。実際によく間違えられる病気が、うつ病です。
うつ病は、適応障害と同じストレス性心疾患で、何らかのストレスが原因となって発症する病気です。
その他、適応障害と似ている病気は、「急性ストレス障害」と「PTSD」があります。「PTSD」の正式な日本語の病名は、「外傷後ストレス障害」といいます。
適応障害を引き起こす原因は、ストレスです。ストレスと一口にいっても、その内容は人それぞれで、また人によってはストレスの受け止め方や対応力に差があります。「急性ストレス障害」や「PTSD」は、個人差を越える心理社会的ストレスを突然受けることで引き起こされる病気です。個人差を超えるというのは、例えば、地震や台風、津波などの自然災害、肉親の急死、暴行、戦争、レイプ、監禁、など、想像を絶するような激しいストレスになります。
日本でも、震災後などに症状が現れる人が多く、一般に知られるようになりました。
また、「急性ストレス障害」の発症は、ストレスを受けてから、およそ4週間以内と言われています。適応障害の場合は、ストレスを受けてから3ヶ月以内と定義されていますので、それに比べると「急性ストレス障害」の方が、症状として早く現れることになります。
適応障害とうつ病
適応障害はうつ病と混同されることが多い病気です。
適応障害という病名が知られるようになったのが、近年になってからというのがその理由かもしれませんが、適応障害とうつ病は、違う病気です。
一番大きな違いとしては、病気を発症した原因が特定できるかどうかという点になります。うつ病は、特定の原因を探し出すことは難しい病気です。これといった原因が無いこともあります。また、原因と思われるストレスを除去したところで、うつ病の症状の改善しません。
適応障害の場合は、本人が自覚し原因がしっかり特定できる病気です。ですから適応障害は、原因のストレスを除去したり軽減したりすることで改善できます。
うつ病のように、脳の働きが影響しているわけではないので、抗うつ薬の効果はうつ病ほどには期待できません。
適応障害の薬物治療は、精神的な症状や抑うつ感には抗うつ薬を、不安感に対しては抗不安薬などが使われます。
実は五月病と呼ばれる病気も、別名は適応障害です。抑うつ感・不安感・無気力・焦燥感などが特徴で、うつ病とも似た症状ですが、一ヶ月以上症状が続くようであれば、専門医を受診しましょう。もっとも、初期の五月病であれば、治療を医療機関やカウンセリングやセラピーを受けなくても、ちょっとしたきっかけで、元気な状態に戻ります。
適応障害の人との接し方
もし、家族や身近にいる人が適応障害だと、医師に診断されたら、どう接したらいいのでしょうか? 分からないからといって、それほど不安を抱えなくても大丈夫です。
適応障害の患者さんと接するには、適応障害に関する「知識・理解・認識」をきちんと持つことが、治療への第一歩になります。
適応障害の患者さんを見ていると、時には、「ヤル気があるのか? ないのか?」と見えることもあります。協調性に欠けていると思ってしまうことや、戸惑うことも多いでしょう。
しかし、それらは、病気の症状なのです。適応障害についての知識を持ち、理解してあげるためにも、医師にしっかり説明を求めましょう。
そして、きちんと病気そのものを理解すれば、患者さんに「どうしてそうなったの?」とか「もっとしっかりしなさい」という、責めるような言葉はかけなくなるはずです。また、逆に、「頑張ってね」というような過剰な励ましも、負担を与えるということが分かっていれば、安易には使わなくなるでしょう。
適応障害という病気は、誰がいつ発症してもおかしくない病気です。適応障害の患者さんと接することに疲れて、家族や周りの人が適応障害になってしまうようなことのないようにしたいものです。
適応障害になりやすい人は?
適応障害は、職場や学校、家庭などでのストレスが原因となって発症する病気です。しかし、ストレスだけが適応障害の原因となるわけではありません。同じ職場にいて同じように仕事をこなし、同じ上司の元で働いている人でも、適応障害の症状が現れる人と、そうでない人がいます。
同じストレスを受けていても、適応障害の症状は現れない人もいるのですから、ストレスだけが原因では無いということになります。
ストレスとその人のストレス対応力とのバランスが崩れた時に、適応障害は現れます。
適応障害が現れる大きなポイントでもある「ストレスへの対応力」は、人によって強かったり、弱かったり、ずいぶん違います。「ストレスへの対応力」は、その人の性格にも関係してくることです。
ストレスを受けやすい性格、適応障害になりやすい性格というものがあります。例えば、「真面目」な方、「完璧主義」「几帳面」「心配性」「頑固」「責任感が強い」という性格の人は、性格的には適応障害になりやすいといえるでしょう。逆に、物事を楽観的に捉え、上手く手を抜くことができるような性格の人は、適応障害にはなりにくいということがいえます。
ストレスを受け止めるときに、真正面から丸ごと受け止めるのではなくて、軽く受け流せるような考え方ができるとずっと楽になります。
適応障害の予防方法
近年、適応障害になるビジネスマンが年々急増しています。会社としても、社員が適応障害やうつ病 などの精神疾患・ストレス性疾患が増加するということは、リスクとなります。適応障害などの精神疾患での休職者が増えれば、大きな損失ですし、仕事内容によっては、重大な事故につながる可能性もあります。また、会社側の責任問題を問われることにもなります。
そんなことにならないように、最近では会社が社員のメンタルヘルスケアに取り組むようになってきました。
メンタルヘルスケアの取り組みとしては、まず、職場を心身ともに働きやすい場所にすることがあげられます。仕事や人間関係のストレスから引き起こされる適応障害や、その他の精神疾患の予防や対応にも努めているということです。その他、長時間労働や過重労働が行われていないかチェックし、異動や配置転換なども慎重に行うように注意を払うようにしている会社も多くなりました。
また、会社側は「セクシャルハラスメント」や「パワーハラスメント」の被害などにも、目を向け始めるようになりました。なぜなら、これらが原因となって、職場で大きなストレスを受け、適応障害になってしまった方が多くなっているからです。