統合失調症とは?
統合失調症という病気をご存知でしょうか。聞いたことはあっても、難しい病名なので、あまり詳しくは知らないという人もいるかもしれません。
統合失調症とは、妄想や幻覚など、いろいろな症状が現れる、精神疾患の一つになります。この病名は、新しくできたもので、2002年までは精神分裂病と呼ばれていました。精神分裂病という病名は、いかにも精神が分裂し崩壊する病気という先入観や間違った見識をもたれることが多いために、統合失調症に変更されました。
統合失調症は、自閉症状と認知障害が基礎疾患になっている病気ですが、医学的に解明されていない部分や、学者によって学説が違う部分などもあります。ある学説によると、統合失調症は、単純型痴呆、破瓜病、緊張病、妄想性痴呆などが含まれるとされています。
症状としては、精神機能の分裂症状が現れ、患者本人が、困難や苦痛を感じることもあれば、感じないこともあります。
発症率は1%弱で、日本全国では約60万人が統合失調症であると予測されています。原因についても、はっきりとは解明されておらず、もし原因が解明したときには、その治療や病気の回復にも大きく貢献することになるでしょう
統合失調症の陽性症状
統合失調症になると、さまざまな精神機能の障害が現れます。思考、知覚、自我意識、意思、欲望、感情などに異常が現れ、それらの症状は、大き2種類に分けることができます。1つが陽性症状で、もう1つが陰性症状です。
統合失調症の陽性症状は、さらに2種類の障害に分けることができます。思考過程の障害と、思考内容の障害です。
思考過程の障害というのは、例えば、誰かと話をしていても、自分の思考に割り込まれるとうつ状態になり、考えが押しつぶされて、話がまとまらず、話せない状況が起こります。
そして、思考内容の障害というのは、他人にとってはあり得ないことを事実だと信じ込んでしまうことです。要するに、妄想のことですが、妄想には様々な種類があります。
よく聞くのは、「被害妄想」や「誇大妄想」です。その他にも、周囲の出来事をすべて自分に関係づけて考える「関係妄想」、いつも誰かに見張られていると感じる「注察妄想」、重い体の病気になっていると思いこむ「心気妄想」、また、自分を神だと思い込む「宗教妄想」などもあります。
これらの障害の他、統合失調症の陽性症状には、自己と他者を区別することができなくなる、自我意識の障害も含まれます。
統合失調症の陰性症状
統合失調症には、大きく分けて2種類の症状があります。その1つが、陰性症状です。
陰性症状には、いくつもの種類の障害が含まれています。
まず、1つは、感情の障害です。
感情の障害とは、感情が平板化して外部に現れなくなり鈍麻してしまう障害や、他人との心の通じ合いがない疎通性の障害などになります。
その他、抽象的な思考が困難になったりする思考の障害や、自発性や意欲が低下し無関心になってしまう意思・欲望の障害なども、陰性症状に含まれます。
また、認知機能障害も陰性症状の一つです。認知機能障害とは、記憶力や注意・集中力などの基本的な知的能力や、計画・思考・判断・実行・問題解決などの複雑な知的能力に障害をきたして、社会活動ができなくなるというものです。
また、幻聴や妄想の世界での会話である「独言」も陰性症状に含まれます。「独言」では、ただむやみに言葉を羅列することもあり、その状態を「言葉のサラダ」と呼んでいます。「独言」の原因として、長年の投薬治療で認知機能が低下したことをあげる学説もあります。
その他、統合失調症の陰性症状としては、抑うつや不安を伴う「感情の障害」、連想が弱くなり、話の内容が度々変化してしまう「連合弛緩」などがあります。
統合失調症の幻覚や妄想について
統合失調症になると、幻覚や幻聴の症状が出てきます。
幻覚とは、実際には存在しないものを知覚し、幻が見える症状です。幻聴とは、実際にはない声が聞こえてくる症状です。統合失調症になると、幻覚や幻聴のほかに、実際にはないにおいを感じる幻匂という症状もあります。
統合失調症の患者さんは、幻覚や幻聴を、幻とは認識できません。あたかも、誰かが実際に話をしているように聞こえます。そして、彼らを脅迫したり、責めたり、悪口をいったりする声が聞こえています。何かをしようとすると、「するな」ととがめたりもします。また、複数の人が会話を交わしているのが聞こえることもあります。自分の考えていることが、声になって聞こえることもあります。
統合失調症の患者さんは、耳元で、悪口や命令やいろいろなことを言われたり、時には、「死ね」と言われることもあり、この幻覚や幻聴が非常に怖いのです。そして、世の中は恐ろしいものだと感じます。
そのために、統合失調症の患者さんの10~15%は、自殺をしてしまうという統計もあります。自殺の確立が、他の精神疾患よりも高いのが、特徴でもあります。
これらの症状には、薬物治療が行われますが、現在でも、幻聴や幻覚のよりよい治療法が研究されているところです。
統合失調症の原因
統合失調症の原因は、実は、現在でも明らかになっていません。様々な原因があげられていますが、あくまでも、仮説の域にとどまっています。
一卵性双生児の研究では、統合失調症の確率が比較的高く、遺伝的要因と環境要因の両方が、発症に関係しているとも考えられていますが、この学説も仮説の1つになります。
統合失調症の原因として挙げられている仮説には、神経伝達物質のひとつであるドーパミンの過剰という説があります。これを、「ドーパミン仮説」といい、中脳辺縁系におけるドーパミンの過剰が、幻覚や幻聴などに関与していると考えられています。
その他にも、様々な仮説があり、例えば、「アドレノクロム仮説」、「グルタミン酸仮説」、「カルシニューリン系遺伝子の異常」、「遺伝的な欠陥」、「発達障害仮説」などがあります。
その他、「two-hit theory(トゥー・ヒット・セオリー)」といい、胎生期と思春期に2回にわたって脳へのダメージを受けたという仮説もあります。
以前は、患者さんが家族関係で苦しんだことが統合失調症の原因だという「心因説」がありましたが、その後の研究の結果、この学説は否定され、症状悪化の原因にはなるものの、発病の原因ではないとされています。
統合失調症のさまざまなタイプ
統合失調症には、実に様々なタイプがあります。ここで、いくつかのタイプをご紹介しましょう。
まずは、「妄想型」です。「妄想型」は、妄想や幻覚が主な症状で、言動が乏しいことが特徴です。統合失調症の中では、もっとも多い症例のタイプで、特に30歳以降に発症することが多いとされています。
「破爪型」とは、思春期前半に発症することが多いタイプです。まとまりのない思考や行動が多く、場合によっては、激しい症状がないこともあります。治療をせずにそのまま放置すると、周囲に関心を持たなくなり、外部との接触をしなくなります。
「緊張型」では、興奮や昏迷の症状が現れます。また、同じ動作を何度も繰り返すことが特徴になっています。このタイプは、「妄想型」や「破瓜型」に比べて発症は稀です。
「識別不能型」は、一般的な統合失調症の基準は満たしているものの、「妄想型」、「破爪型」、「緊張型」のいずれにも当てはまらないか、あるいは、2つ以上のタイプの特徴を示すものです。
また、その他には、急性期の後に現れる「統合失調症後仰うつ」、急性期症状が消失した後の安定した状態の「残骸型」、陰性症状が強く自我意識のない「単純型」、そして、特定不能の統合失調症などがあります。
統合失調症と診断されたら
統合失調症の患者さんは、自分の異常を認めることができないはずです。もし、幻覚や幻聴などの症状が認められる人が、家族や周囲にいるという場合、まずは、病院に連れていくようにしましょう。
そして、統合失調症と診断されたら、なによりも、まずは医師の指示に従って、治療に専念しましょう。
統合失調症の治療は、外来治療と、入院治療の2種類があります。いずれも、薬物治療をメインに、そのほかの治療を組み合わせるなどして進めていきます。診察をしてもらう精神科医や看護師だけではなく、場合によっては、精神保健福祉士や作業療法士、臨床心理士、音楽療法士などと一緒に、治療を進めます。
統合失調症などの精神障害の治療、保護、入院、社会復帰などは、精神保健福祉法に沿って行うことになっています。また、精神障害の度合いによっては、患者さんに精神障害者保険福祉手帳が交付されます。
治療法としては、代表的な「薬物療法」の他、「電気けいれん療法」、「心理教育」、「ソーシャル・スキル・トレーニング」、「作業療法」、「心理療法」、「社会援助」、などが取り入れられます。
かつては、精神外科による外科手術や、インシュリン・ショック療法などが行われていましたが、現在では行われていません。
統合失調症の薬
統合失調症の治療のメインは、「薬物療法」になります。
「薬物療法」では、おもに、ドーパミンD2受容体拮抗作用を持つ向精神薬が、陽性症状などの軽減に有効です。
ただし、近年では、これまでの抗精神薬よりも副作用が少なくて、陰性症状にも有効な「非定型抗精神薬」という、新しいタイプの薬が開発されました。リスぺドリン、ぺロスピロン、オランザピン、クエチアピンなどです。これらの薬が、近年では主流になっています。
また、最近では、アリビプラゾール、ブロナンセリンの2種類が加わり、日本では6種類の非定型抗精神薬が使用可能になっています。
これらの、非定型抗精神薬は、統合失調症などの精神病の治療を向上させましたが、副作用もあります。
オランクエンやクエチアピンは、稀に糖尿病や高血糖を誘発します。
その他の問題点としては、オランザピン、クエチアピン、アンピプラゾールなどは、薬の価格が非常に高いということです。
また、抗精神薬の一般的な副作用として、パーキンソン症候群、錐体外路症状、アカシジア、便秘、口渇、目のかすみ、眠気、体重増加などを生じる事があります。
統合失調症に、仰うつ症状などが伴う場合は抗うつ剤を、不安症状が強い場合には抗不安剤を、不眠症状がある場合は睡眠薬を併用することもあります。
統合失調症の心理教育
統合失調症の治療には、「心理教育」が取り入れられることがあります。
統合失調症の患者さんは、薬物療法で幻聴や幻覚が軽くなっても、自分が精神疾患にかかっているという自覚を持つことができない場合が多いです。
自分が統合失調症だと自覚していない場合は、薬物治療を自己判断で途中でやめてしまい、再発率が高くなります。そのため、自分が病気であることを認識するよう援助し、病気との折り合いの付け方を学び、治療意欲を上げるために、心理教育を行います。
この心理教育は、精神保健福祉士が担当し、患者本人だけでなく、患者の家族に対して家族教育を行うこともあります。
心理教育によって、患者さん自身が、統合失調症についての知識を持ち、なおかつ、視聴の仕方だけでなく、生き方や日常生活のセルフ・コントロールなどを試みます。回復に向かい始めると、患者さんが自分の病気について関心を持ち続けることは難しく、多くの場合、人生を生きることに関心が向かってしまいます。そして、患者さんも家族も、病気のことを忘れて、生活や仕事で無理をしてしまうと、再発の可能性が高くなります。
家族教育では、統合失調症や精神病のことを十分に知ること、家族が心身ともに健康であり続けること、家族が自分自身の生き方をし、人生を楽しむことなどがテーマになります。
統合失調症の作業療法
統合失調症の治療では、薬物療法や心理教育の他に、作業療法を行う場合があります。
作業療法とは、絵画、折り紙、手芸、園芸、スポーツなどの、作業活動を行いながらの治療です。これらの作業療法は、言葉を主体にしない交流によってストレス解消や自分の価値観を高めるなどの効果が期待できます。入院患者さんの病棟活動の一つとして取り入れられたり、また、デイケアプログラムの1つとして行われる治療法になります。
作業療法は、作業療法士が担当します。作業療法士は、精神科の医師の指示のもと、作業療法を行うだけでなく、患者さんが集中できるような作業活動を見つけて、それぞれの患者さんに合ったものを取り入れてくれます。
統合失調症の急性期の場合、作業療法によって幻覚や妄想を抑えたり、現実の世界で過ごす時間を増やしたり、生活のリズムを整えるなどの目的で行われます。
慢性期の場合は、退院を目的にして、作業療法を行います。ですから、患者さんのペースで行える作業活動を、少しづつ増やしていきます。退院を目的とする場合は、薬の管理や生活のリズムの管理、自分のことを自分で行う自己管理、そして、作業能力や体力が向上することが必要になります。
統合失調症と芸術
統合失調症という病名を聞くと、ちょっと怖いような印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、統合失調症の患者さんの中には、芸術や文化の分野で、非常に活躍し大きな功績を残している人もいます。
例えば、映画「ビューティフル・マインド」の主人公である、数学者のジョン・ナッシュは、統合失調症になり、人生の半ばで研究生活を中断しましたが、その後克服し、ノーベル経済学賞を受賞しました。映画の中では、統合失調症の幻聴や幻覚、妄想などの症状が、分かりやすく表現されています。ノーベル経済学賞を受賞した論文は、統合失調症になる以前に発表されたものですが、病気を克服した後は、大学で教鞭をとるまでに回復していました。
また、日本人の画家、草間彌生は、少女のころから統合失調症でした。繰り返しの幻覚や幻聴から逃れるために、自分に襲ってきた幻覚や幻聴を絵に描いたという画家です。紺綬法章や、フランス芸術文化勲章オフィシエ、旭日小綬章などを受けている、現代アートの分野でとても高い評価を受けている画家です。
その他、「智恵子抄」で有名な彫刻家である高村光太郎の妻、高村智恵子は、晩年に統合失調症になりました。画家でイラストレーターのルイス・ウェイン、詩人で思想家のフリードリッヒ・ヘルダーリン、コルネット奏者でジャスのルーツを作ったといわれているバディ・ボールディンなども統合失調症でした。