摂食障害とは?
摂食障害とは、極端な食事制限や、過度な食事摂取などを伴う依存症の精神疾患です。それらの症状によって、健康に様々な問題が起こってきます。
摂食障害は、主に、拒食症と過食症の総称になります。拒食症や過食症というと、知っている方も多いでしょう。
摂食障害は、人間関係の問題による心理的なストレスや、コミュニケーションの不全などが原因で、拒食症から過食症に移行するケースや、逆に過食症から拒食症に移行するケースも、珍しくありません。
摂食障害になると、チューイングという行為をすることがあります。チューイングとは、日本語で、「噛み吐き、噛み砕き」といわれるもので、一定の時間に、食べ物を口に入れて噛んだ後、飲み込まずにビニール袋などに吐き捨てるという行為です。このチューイングは、過食症の一部とされています。
摂食障害は、いくつかのタイプに分類されます。「神経性無食欲症」、「神経性大食症」、「特定不能の摂食障害」、「夜間摂食症候群」の4種類があります。
症状は、同じ拒食症や過食症でも、患者さんによって非常に様々です。そのため、治療方法も、それぞれのタイプによって変わってきますので、医師によく相談し治療を進めるようにしましょう。
いろいろある摂食障害
摂食障害は、いくつかのタイプに分類できます。
まずは、「神経性無食欲症」で、いわゆる拒食症と呼ばれるものです。神経性無食欲症には、制限型と、むちゃ食い・排出型があります。これは、若い人によく現れる摂食障害で、自分が太っていると考えて食べることを拒否し、体重が減少するという特徴があります。別名、思春期やせ症などと呼ばれることがあります。
「神経性大食症」は、いわゆる過食症と呼ばれるものです。神経性大食症には、完全に吐く型と、途中で吐くのをやめる型があります。いずれも、激しく飲食を続けた後に、嘔吐、下剤、利尿剤、薬物、過度の運動、絶食によって代償行為を行うことが特徴です。症状が悪化してくると、自己嫌悪から、自殺を図ることもあります。神経性大食症の根底には、無理なダイエットに関する考え方があることが多いです。
「特定不能の摂食障害」とは、神経性とは特定できない摂食障害を指します。特定不能の摂食障害には、むちゃ食い障害と吐き障害があります。むちゃ食い障害とは、過食症とは異なり、食べた後に嘔吐や下剤を使用しない症状です。うつ病やパニック障害との合併症として現れることもあります。
その他、「夜間摂食症候群」があり、夜間にのみ摂食障害が現れるというものです。
神経性無食欲症について
神経性無食欲症は、心理的要因、社会的要因、生物学要因によって起こる、精神疾患です。特に、心理的要因であるストレスが大きく影響し、慢性的になることもあります。近年では、神経性無食欲症の患者さんは増加しており、なおかつ、抑うつを伴ったり、身体的な病気を合併することもあります。また、ダイエットが若い人たちの関心事であることを考えると、社会に与える影響も大きなものです。
神経性無食欲症の患者さんは、体重を落とすためのダイエットに達成感を感じます。そして、そのうちに、体重を落とすことを止められなくなってしまいます。たとえ、痩せていても、自分は太っている、自分の体重は多すぎると感じ、どこまでも体重を減らすことを望みます。痩せ過ぎていても、それを自分で認識できません。
宗教上の理由で断食をする場合や、政治目的の断食ストライキなどは、神経性無食欲症ではありません。また、食事を制限することで健康や長寿を維持できるという信念がある場合も、神経性無食欲症ではありません。
神経性無食欲症の場合は、栄養状態がひどく低下した結果、神経性大食症になる場合もあります。
また、摂食障害は、比較的新しい病気のように思われますが、神経性無食欲症は「源氏物語」の中に同様の症状が書かれているほど、古くから存在する病気です。
神経性大食症について
神経性大食症とは、一気に食べ物を食べた後に、嘔吐、下剤、利尿剤、薬物などの代償行為を伴う症状で、俗に過食症とも言われています。
神経性大食症の人は、たくさんの量を食べても、代償行為を行うので、必ずしも肥満体形ではありません。患者さんの多くは、嘔吐やその後の絶食、又はダイエットなどによって体重を保っています。また、その根底には、無理なダイエットに対する考え方を持っていることが多いです。
神経性大食症の患者さんは、食べたのものを完全に吐いてしまうタイプと、吐き出さずに、食べた後の絶食や過度の運動を行うタイプがあります。いずれも、代償行為になります。
神経性大食症は、日本以外でもけして珍しい病気ではなく、例えばイギリスのダイアナ妃がチャールズ皇太子との不仲をきっかけにこの病気になったといわれていますし、アメリカの歌手エルトン・ジョンも、精神的に不安定で食べ物やアルコールの過剰摂取をしていた時代があるといわれています。
精神性大食症に患者さんは、ほぼ共通して、思春期に友人がいなかったり、その他の心理的な空白の時期があります。そして、その後に、大学受験やカルト的な思想に影響を受けるなど、インパクトの大きい出来事を経験しているケースが多いです。
摂食障害の原因
摂食障害になるには、いくつかの原因があると考えられています。いずれも、心理的なものが原因です。ここでは、いくつかの原因をご紹介します。
例えば、まずあげられるのが、親との関係がうまくいっていないということです。これは、とりわけ、2~5歳の幼いころに、人格基礎形成期の欲求5段階の中の2つ、「安心安全の欲求」と「愛情や所属の欲求」が満たされなかった経験を持っており、間脳視床下部食欲中枢に障害が起きているという説になります。
また、対人関係の恐怖からの代償行動説、「女性性の拒否」による代償行動説、肥満への恐怖からの「ダイエット・ハイ説」、結婚生活のストレスや複雑な人間関係による「ストレス説」、また、「遺伝説」といったものもあります。
一般的には、痩せたい、きれいになりたいと望む若い女性が無理なダイエットを続け、摂食障害につながると思われがちですが、けして原因は、ダイエットだけではありません。体重が増えることが怖いという思いだけではなくて、成長するのが怖いと感じてしまう若い女性もいます。
また、家庭や社会での人間関係やストレスも大きな原因となっていますので、普段からストレスをためないような生活を送るようにしたいものです。
摂食障害になったら
自分は摂食障害ではないか、あるいは、身近にいる人が摂食障害ではないかと疑わしい場合は、まずは、精神科や心療内科で診察をしてもらいましょう。もし、精神科や心療内科は行きづらいという場合は、セルフチェックをしてみるのもいいかもしれません。
例えば、「一日に何度も体重計に乗る」、「体重の増減にこだわる」、「周りには痩せているといわれるが自分では太っていると思う」、「食事のペースが遅く、よく残す」、「痩せてきたけれども、特に何の病気でもない」。このような症状に当てはまる場合は、神経性無食欲症かもしれません。あるいは、「いつも食べ物のことばかり話題にする」、「たくさん食べているが太らない」、「食べた後、何時間もトイレにこもる」、「食べた後にふさぎこんでしまう」、「食べだしたら止まらない」、「自分が嫌いだ」、「完璧主義者である」。このような症状が当てはまる場合は、神経性大食症の可能性もあります。
ただし、これらのセルフチェックは、あくまでも目安です。医師に診察してもらう場合、摂食障害は、「精神疾患の診断・統計マニュアル」の診断基準をもとに診察します。診断基準には、体重の増減や食事・食欲に関するエピソードなども含まれますので、安易に自己判断しない方がよいでしょう。
そして、医師の判断に従って、心身ともに回復へと向かうような治療を進めていきましょう。
摂食障害のさまざまな合併症
摂食障害になると、様々な合併症が現れます。合併症には、大きく分けると2種類あり、1つが過食と嘔吐の結果に生じる合併症で、もう1つが慢性の栄養失調の影響で生じる合併症です。
過食と嘔吐の結果に生じる合併症には、「虫歯や歯のエナメル質の浸食」、「唾液腺炎」、「電解質のアンバランス」があります。
「虫歯や歯のエナメル質の浸食」というのは、嘔吐を繰り返すことで胃酸が何度も口の中にあがってくるため、歯のエナメル質が溶けてボロボロになることです。歯が痛くなったりもします。
「唾液腺炎」とは、過食を繰り返すと、口の中に食べ物が入っている時間が長いためにいつも唾液腺が刺激され、唾液腺が大きく腫れるという症状です。口の中が不潔だと、細菌が唾液腺に入って炎症を起こし、かなりの痛みを伴います。
「電解質のアンバランス」とは、嘔吐や下剤の使用によって胃や腸のカリウムが多量に失われるという症状です。深刻な低カリウム血症になることもあります。
栄養失調の影響で生じる合併症では、「冷え症や低血圧」、「貧血」、「骨粗しょう症」、「無月経や無排卵」などがあります。重症な貧血になると、疲労感や動悸も併発します。また、無月経や無排卵が長期間続く場合は、将来の妊娠や出産にも大きな影響が出てくることがあります。
摂食障害の治療法
摂食障害の治療法には、大きく分けて2種類があります。1つが身体的治療で、もう1つが心理・行動面への治療になります。
身体的治療とは、「薬物療法」や「栄養指導」のことです。
「薬物療法」では、精神面の改善に対して抗不安薬や抗うつ薬がよく使われます。低栄養の症状に対しては、栄養補給としてアミノ酸製剤や栄養剤を使います。また、消化薬、吐き気止め、便秘予防、自律神経調整薬、ビタミン薬、胃腸機能調整薬などが使われることもあります。
「栄養指導」は、無理に食べる量や食べ方を矯正するのではなく、無理なくできる範囲で栄養バランスを保つことを目的に行われます。
心理・行動面への治療では、いくつかの方法があります。「家族療法」、「家族カウンセリング」、「行動療法」、「集団療法」、「認知行動療法」などです。摂食障害の治療では、薬物療法は補助的なもので、主体となるものは心理・行動面への治療になります。「家族療法」や「家族カウンセリング」を通して、患者さん本人だけでなく家族ぐるみで治療を進めることは非常に効果的な方法になります。
また、「行動療法」は、不適切な食行動を治す目的で行われ、「認知行動療法」では、摂食障害に関係している自己概念の形成において、偏った思い込みを直す目的で行われます。
生活改善で摂食障害を治す
摂食障害の治療には、生活改善も非常に大切になります。生活改善とは、具体的には、「十分な睡眠」、「適切な運動」、「おいしい食事」などになります。いずれも、ごく当然のことと思われるかもしれませんが、摂食障害になると、これらの当然のことがなかなかできません。
例えば、摂食障害の患者さんの中には、睡眠障害のある方もいます。夕方になると気分が晴れてきて夜になると眠れないという生活リズムになってしまう患者さんもいるのです。夜眠れないだけではなくて、睡眠時間を削ってまで過食を続ける患者さんもいます。生活のリズムを整えるためにも、まずは、十分な睡眠をとるようにしましょう。寝具や照明、香り、音楽など、眠りにつくための工夫をしてみるのもおすすめです。
摂食障害の中でも、神経性大食症の患者さんは、比較的家に引きこもりがちになるケースがあります。また、神経性無食欲症の患者さんは、逆に、激しい運動をしすぎてしまうケースがあります。いずれの治療にも、適度な運動を心がけるようにしたいものです。適度な運動は、気分が晴れやかになり、ストレスを忘れさせてくれるという効果もあります。
摂食障害になると、おいしい食事を普通に取るというのは、簡単なことではありません。食事をおいしいと感じることが、ほとんどないというのが、摂食障害の患者さんです。ですから、無理に食べるのではなく、自分に食べられるものを頂くようにしましょう。小皿に分けて盛りつけたり、家族とは違うメニューを用意したりする工夫をしてみましょう。