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アルコール依存症とは

アルコール依存症とは?

アルコール依存症とは、多くの方がご存じのように、自分の意志では飲酒をコントロールできなくなり、飲酒を繰り返してしまうという症状をいいます。お酒などのアルコールの摂取によって感じる精神的、肉体的な薬理作用にとらわれてしまうのです。アルコール依存症は精神疾患ですが、アルコールによって体を壊してしまったり、さまざまな事件や事故を起こしてしまったりもします。また、アルコール依存症は、社会的な信頼や人間的な信頼を失ってしまうこともあります。

以前は、慢性アルコール中毒、略してアル中と呼ばれていました。飲酒を自分でコントロールできないのは、本人の意志が弱く、道徳概念や人間性が欠けているなどとも言われていましたが、現在では医学でカバーする範囲が拡大されて、精神疾患の1つとして治療を行っています。

日本では、アルコール依存症の患者さんは230万人程度というデータがあります。お酒を飲む人の26人に1人がアルコール依存症で、精神疾患の中でも罹患率が高くなっています。また、この数字からは、誰でもがアルコール依存症になる可能性があるということがわかります。なお、平成15年の「アルコール使用による精神及び行動の障害」による精神科病院の入院患者数は2751人となっています。

また、アルコール依存症の患者さんを男女別にみると、体格や女性ホルモンなどの要因から、男性よりも女性の方が、少しのアルコールの量で依存症になってしまう危険が高くなっています。

アルコール依存症のさまざまな症状

アルコール依存症と一口にいっても、様々な症状があります。

まず、代表的な症状は、自分の意思で飲酒のコントロールができなくなるという症状です。アルコール依存症になると、一度お酒を飲み始めると、少しでやめておこうと思っても、適量でやめるということが不可能です。お酒を飲みすぎることの有害性を理解していても、自分の意志ではどうにもならずに、飲み続けてしまいます。

また、目が覚めている間に、常にアルコールに対する強い渇望感があるというのも、症状の1つになります。常に酔っぱらった状態で、体内にアルコールがある状態でないと気が済まなくなってしまい、お酒を飲んではいけない場面でもお酒を飲み続けてしまいます。

その他、飲酒で様々なトラブルを起こしで深く後悔し、それを忘れようとまた飲酒を続けるというのも、アルコール依存症の症状です。飲酒量が増えると、やがて内臓疾患などを併発して体を壊してしまったり、社会的、あるいは経済的な問題を引き起こしたり、または家族とのトラブルを起こすようになります。それらがストレスになり、自分の飲酒を後悔するものの、その精神的な苦痛を忘れようと、さらに飲酒を続けてしまいます。

アルコール摂取を中断した際に、頭痛、不眠、イライラ感、発汗、手指や全身の震え、吐き気など、様々な症状を生じますが、これらは離脱症状と呼ばれるものです。禁断症状とも言われ、重症になると妄想やせん妄、けいれん発作、幻覚などの症状も現れます。

飲酒の量を自分でコントロール

徐々に飲酒の量が増えて、いつの間にかアルコール依存症になっていたという人も、患者さんの中にはいます。アルコール依存症になると、自分で飲酒の量をコントロールできなくなってしまします。そして、量だけではなくて、飲酒の時間やタイミングなどもコントロールできなくなってしまいます。

また、アルコール依存症になると、本人がアルコールに依存していることを認めないケースが多くあります。アルコール依存症は「否認の病」と呼ばれていて、家族や知人から飲酒について指摘されると、不機嫌になったり、あるいは、自分はそれほど飲んでいないと開き直ったりします。しかし、実際には、飲酒の量を自分でコントロールできない依存症、あるいは、依存症の予備軍になっているのです。

アルコール依存症になると、その治療には、非常に時間がかかり、また、症状が重くなれば、本人だけでなく家族も様々な問題を抱えることになります。また、周りからの信頼も失うことになりかねません。

ですから、最近飲酒の量が増えてきたなと感じたら、あるいは、最近は毎日のように飲酒しているなと思ったら、ぜひ、自分自身を見つめる心の余裕がある段階で、飲酒の量をコントロールするように心がけましょう。

お酒を飲んでトラブル?

お酒は、たとえアルコール依存症でなくても、飲みすぎるとトラブルを起こしてしまう原因になることが多くあります。お酒は、少量であれば、心身の健康を保つ効果もありますが、やはり、飲み過ぎはよくありません。アルコール依存症になると、困るのは自分だけではなく、周りの人を巻き込んでトラブルに発展してしまうことも多々あります。

まず、アルコール依存になったことを、周りの人のせいにして、攻撃的になったり、自己中心的になり、周りの人と接してしまします。また、アルコールの入っていない状態でも、酔っている時と同じような言動をすることもしばしばあり、それらがトラブルのもとになります。

また、アルコール依存症の患者さんは、精神的なストレスなどによって自殺をしてしまったり、あるいは、事故死をしてしまうなど、何らかの形で死に至るケースが比較的多い精神疾患です。

飲酒による様々なトラブルは、患者さんの家族にとっても、常にストレスを感じる原因になります。そして、家族との信頼関係が壊れてしまい、別居や離婚に発展することもあります。

取り返しのつかないトラブルに発展することもあるということを忘れずに、アルコールの量は自分でコントロールするようにしましょう。

アルコール依存症の離脱症状

アルコール依存症の患者さんは、体の中のアルコールが少なくなってくると、離脱症状が出てきます。離脱症状が出ても、断酒を続ければ、大抵の場合、数日で症状は消えます。しかし、体の中のアルコールの量を上げることでも、離脱症状はなくなるのです。

離脱症状には、その現れ方によって大きく2種類に分けられます。1つが「早期離脱症状」で、もう1つが「後期離脱症状」です。

「早期離脱症状」とは、飲酒をやめて数時間すると現れる症状です。具体的には、手や全身の震え、発汗、不眠、吐き気、嘔吐、血圧上昇、不整脈、焦燥感、集中力の低下、幻聴、てんかんの様なけいれん発作などになります。もし、この離脱症状が現れている期間に飲酒をすると、症状は軽快しますが、飲んだアルコールが新たな離脱症状の原因になるという、悪循環を招きます。

「後期離脱症状」とは、飲酒をやめて2~3日目に現れる症状で、大抵は3日くらいでよくなりますが、人によっては、3か月ほど続く場合もあります。主な症状は、幻視、見当識障害、興奮などになります。見当識障害とは、時間や場所、人物の見当がつかなくなることです。このような症状に不安や恐怖を感じ、興奮することがあるのです。

また、この他にも、発汗、発熱などの、自律神経症状を伴うことが多くあります。

アルコール依存症になるまで

アルコールをたくさん飲んでも、アルコール依存症にならない人もいます。アルコール依存症で苦しい経験をしたという人にとっては、たくさん飲んでも依存症にならないという人が、羨ましくも感じるかもしれません。

実は、アルコール依存症になる危険因子というものがあります。その危険因子とは、「女性の方が男性より短い期間で依存症になる」、「未成年から飲酒を始めるとより依存症になりやすい」、「遺伝や家族環境が危険性を高める」、「家族や友人のお酒に対する態度や地域の環境も影響する」、「うつ病や不安障害などの精神疾患も危険性を高める」などです。こういった危険因子があると、アルコール依存症になりやすくなります。ですから、ただ単に、お酒をたくさん飲むのが好きだというだけでは、依存症にはならないのです。

アルコール依存症になるまでには、お酒に関するその人の経歴が関係しているということです。また、悩みや不安などのストレスも関係してきます。そして、意外かもしれませんが、遺伝も関係しているので、もし、アルコール依存症を心配している場合は、自分とお酒と家族について、いろいろと調べてみるといいでしょう。そうすることで、アルコール依存症を防ぐこともできるかもしれません。

アルコール依存症の治療法

アルコール依存症の治療で大切なことは、「自分はアルコール依存症である」と本人が認識することです。まずは、本人の認識がなければ、治療は進みません。

多くの患者さんは、自分がアルコール依存症であるということを認めたくはないものです。なぜなら、認めてしまうと、お酒が飲めなくなってしまうからです。ですから、本人に自覚を持ってもらい、治療の意思を持たせることが第一歩となります。

アルコール依存症は、かつては、本人の意思が弱いことが原因だとか、不幸な心理的・社会的問題が原因だと考えられていましたが、現在では、アルコールによって体や精神に変化が現れ病気になり、その結果、過剰な飲酒になると考えられています。そういった、アルコール依存症に対する理解も、患者さんやその家族には必要なことになります。

現状では、一度アルコール依存症になってしまうと、治療が難しいというのが現実です。根本的な治療というと、断酒以外にありません。また、この治療は、本人だけでは難しいために、家族の協力が必要になります。

重度のアルコール依存症の場合は、入院治療が必要なこともあります。

また、断酒をして何年も経ってから、たった一口お酒を飲んだだけで、またアルコール依存症の症状が出てくるというケースもあります。

現在では、精神科での断酒会や自助グループへの参加などを通して治療を続け、抗酒剤などの薬を併用することもあります。

女性に多い? アルコール依存症

アルコール依存症は、男性でも女性でもなる病気です。また、アルコール依存症になる年齢も様々です。

以前は、アルコール依存症というと、中年の男性に多い症状と思われがちでしたし、実際に、中年男性の患者さんが多くいました。現在でも、男性の患者さんが多いことは、変わりがないのですが、最近では、若い女性のアルコール依存症患者さんも増えてきています。

アルコール依存症を発症する年齢は、男性も女性もそれほど変わりがありません。しかし、習慣的にお酒を飲み始めてから、アルコール依存症になるまでの期間は、女性の方が短いのです。要するに、女性の方が男女性の方が性よりも早く依存症になるということです。

なぜかというと、女性は、同じ飲酒量でも血中濃度が高くなりやすく、また、飲酒による肝障害やうつなどの合併症を起こしやすいのです。そのために、飲酒問題が発見されやすいということが上げられます。

また、女性ホルモンは、アルコールの代謝を阻害する要因になります。そのために、同じ飲酒量でも男性の2倍の悪影響が出ると言われています。

お酒を飲む習慣からアルコール依存症になる進行の時間は、男性が10年なのに対して、女性は6年というデータがあります。

アルコール依存症と妊娠

最近では、アルコール依存症の女性が増えていますが、女性の場合は飲酒と妊娠や出産が関係してくるため、悪影響が拡大しやすいと言えるでしょう。

妊娠中の女性は、一般的には、お酒を飲んではいけないと言われていますが、これは、妊娠中の母体とお腹の胎児は、胎盤とへその緒を通じて直接つながっており、アルコールが胎盤を通じて胎児にまで到達することが分かっているからです。

妊娠中の女性がお酒を飲むと、お腹の胎児も否応なしにアルコールを摂取することになります。特に、妊娠初期の場合は、胎児へのアルコールは非常に悪影響となります。

母親がアルコール依存症で、妊娠中もお酒を飲み続けた場合、胎児は、先天異常を持つ胎児性アルコール症候群として生まれてくる可能性が高まります。その可能性は40%とも言われています。

出産後も、授乳期に母親がお酒を飲んだ場合、そのアルコールが母乳を通じて乳児に影響を与えます。そのため、妊娠期間中だけではなく、授乳期間中も飲酒は避けるべきなのです。

ただし、母親がアルコール依存症でも、妊娠・授乳期中にお酒を飲まなければ、生まれる子供に悪影響が出ることはありません。ですから、かつてアルコール依存症だったという女性は安心して大丈夫です。

アルコール依存症の合併症

アルコール依存症になると、様々な合併症を発症することが多くあります。もともと、アルコール依存症の患者さんは、心身に多くの疾患を抱えていて、危険性が高かったこともあります。また、他の精神疾患が、アルコール依存症を引き起こすこともあります。

アルコール依存症の合併症には、大きく分けると2種類があります。1つは「精神疾患」で、もう1つは、「身体的疾患」です。

「精神疾患」には、「うつ病」、「不安障害」、「統合失調症」、「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」、「アルコール幻覚症」、「アルコール性妄想状態」、「ニコチン酸欠乏脳症(ペラグラ)」、「小脳変性症」、「アルコール性痴呆」、「アルコール性多発神経炎(末梢神経炎)」などが上げられます。

なお、「アルコール幻覚症」では殺人に至るケースもあり、「小脳変性症」では、歩行障害などの下肢の異変が起こり、「アルコール性多発神経炎(末梢神経炎)」では四肢の異常感覚や手足の筋肉の脱力などの症状が現れます。

合併症の「身体的疾患」とは、おもに内臓疾患になります。「アルコール性脂肪肝」、「アルコール性肝炎」、「アルコール性肝硬変」、「アルコール性胃炎」、「アルコール性膵炎」、「食道静脈瘤」、「アルコール性心筋症」、「マロリー・ワイス症候群」などを併発することがあります。

アルコール依存症のための断酒会

断酒会とは、アルコール依存症の患者さんと、患者さんの家族によって作られている自助グループになります。断酒を続けることをお互いに励ましながら、サポートし合って、アルコール依存症についての正しい理解や知識学び、アルコール依存症を治していくために作られたものです。

断酒会は、多くの場合会費制で、オープンな姿勢を取っているグループです。また、全日本断酒連盟など、組織化されています。

AA(アルコホーリクス・アノニマス)は、日本の断酒会の原型と言われている組織です。

アメリカで始まり、現在では、世界180カ国以上に広まっていて、使われている基本テキストは、「ビッグブック」と呼ばれ、70カ国以上で翻訳されています。AA(アルコホーリック・アノニマス)では、アルコール依存症からの回復のために、ミーティングと呼ばれるグループワークや、「12ステップ」という回復プログラムを行います。

また、プライバシー保護の観点から、個人よりも原理を優先させ、フルネームは名乗らないルールとなっています。

AA(アルコホーリック・アノニマス)は、日本の断酒会の原点になっていますが、名簿や会費はなく組織化された団体という点では、断酒会と異なっています。