うつ病とは
うつ病は、現代では、多くの人が認知している病名になりました。
昔は、うつ病というと、ちょっと怖い病気だとか、治療の方法が見つかっていない病気というイメージがありました。しかし、近年では、「うつ病は、心の風邪」とも言われ、誰もが直面する可能性があるものだという理解が浸透しつつあります。
また、自分が、あるいは、家族が、実際にうつ病になったという人も、大勢いらっしゃるのではないでしょうか。
うつ病は、具体的には、気分が落ち込んだり、不安になったり、焦燥感に駆られたり、食欲が低下したり、眠れなくなったりというような症状が出る、精神疾患です。
もっとも、社会生活に支障をきたすほどの症状でなければ、病気ではなく、ただ単に症状といわれることもあります。ただし、日常生活に支障をきたすほどの症状の悪化が見られるケースは、「うつ病」と呼ばれます。
うつ病は、脳と心の、両方から起こる精神の病気で、重症になると、自殺願望や生命にかかわるような症状も出てきます。ただし、しっかりと治療を続けることで、治る病気でもあります。
まず大事なことは、自分がうつ病であるということを、しっかり自覚すること、そして、時間をかけてじっくりと治療に取り組むことです。
うつ病と現代
うつ病というと、気分がうつ状態になったり、眠れない日が続いたりという症状が一般的です。
ところが、最近では、「新型うつ病」と名付けられたうつ病の患者さんが、非常に多くなっています。この「新型うつ病」は、都市部などで広まっている、現代病の一つになります。従来のうつ病とは、症状が少し違っています。「新型うつ病」は、1日中うつ状態が出るというものではありません。夕暮れ時に、症状が出ることが多いという病気です。症状としては、睡眠の取り過ぎや過食などがあげられます。
また、会社にいる間はうつ状態だが、自宅に帰るとうつ症状が治るというようなこともあります。要するに、仕事は全く手につかないけれども、自宅での日常生活や趣味などは何ら異常を伴わずに行うことが可能なのです。
この「新型うつ病」では、非常に他人の言動に傷つきやすいという特徴があります。ちょっとした上司の小言に深く傷つき、会社を休んでしまったり、人とのコミュニケーションがイヤになったりします。
このような「新型うつ病」は、近年になって広まり、現在では、うつ病と診断される人の約半数が、「新型うつ病」だといわれています。
うつ病セルフチェック
自分は大丈夫? と心配になったら
大きなストレスを受けた時や、なかなか気分が晴れないときなどが、「自分は、もしかするとうつ病ではないか……」と、心配することもあるでしょう。
そのようなときには、うつ病になっているかどうか、セルフチェックをしてみましょう。
ただし、セルフチェックというのは、あくまでも、病院で診察を受ける前に、自分自身の体の状況を理解するために行うものです。特に、心の病の場合は、セルフチェックでは、本当に病気なのか、あるいは、うつ病だとしたらどの程度の症状なのかを、自分で判断することは、危険なこともあります。1つの目安として、セルフチェックをしてみるといいでしょう。
具体的な症状の例
まず、次のような症状はありますか?
・毎日のように一日中気分が沈んでいる。
・何も興味がわかない。
・日に日に食欲が低下してくる。
・毎晩、眠れない。
・いらいらしたり、落ち着かないことが多い。
・毎日疲れを感じたり、気力がわかない。
・自分には価値がないと思うことがある。
・この世から、消えてしまいたいと思うことがある。
もし、これらの多くの症状が自分に当てはまるといいうのならば、早めに精神科や心療内科などで、医師の診察を受けるようにしましょう。
また、当てはまるものが1つだけという方でも、症状が重症である場合は、ぜひ医師の診察を受けることをお勧めいたします。
うつ病への対策
うつ病は、誰でもなる病気です。だからこそ、うつ病にならないような対策を知っていれば、うつ病を事前に防ぐことができます。うつ病にならないために、日常生活で気をつけることを、いくつかご紹介します。
うつ病の大きな原因となるのは、ストレスです。ですから、自分に合ったストレスの解消方法を身につけることが、一番のうつ病対策といえます。
ストレス解消の方法は、友達とおしゃべりをしたり、旅行に行ったりと、人によって様々です。甘いものを食べることで、ストレスを発散できるという人もいます。上手にストレスを発散し、貯めこまないようにすることが大切になります。
また、悩みごとや問題に対する意識を変えることも大切になります。悩みがあると、落ち込みがちになってしまいますが、むしろ、悩みを解決する方法を見つけ出すようにしましょう。
また、1人で考えていても、なかなか解決できない場合は、周りの人に相談したり、最近では、インターネットをうまく利用して自分の悩みを打ち明けてみるというのも、気分がすっきりして効果的な場合があります。
何よりも、悩みや問題が起きた時に、なるべくポジティブに考える思考が、うつ病の対策になります。
うつ病のお薬の話
うつ病と診断されてしまうと、「治るのだろうか?」、「いつまで、つらい症状が続くのだろうか?」と不安になることでしょう。
うつ病の治療には、いくつかの方法がありますが、抗うつ剤とよばれる薬を服用することで、ずいぶん症状が楽になることがあります。
中には、「うつ病を薬で治すのはちょっと怖い」と思われる方もいるかもしれませんが、実は、うつ病の治療で抗うつ剤を使用するのは、ごく一般的なことです。そして、効果も認められていますので、安心して医師の処方に従うのが、もっとも良い治療方法なのです。
抗うつ剤は、脳に働きかける作用があり、脳内のホルモンであるセロトニンやノルアドレナリンなどを増やす効果があります。そして、やる気や落ち着き、イライラや怒りなどをうまくコントロールしてくれます。
最近では、副作用が少ない抗うつ剤が開発されています。薬剤名は、デプロメール、ルボックス、パキシル、トレドミンなどになります。
これらの薬は、確実に効果を確認できるまで、1~2週間以上かかるという特徴があります。また、効果に関しては、個人差もありますので、まずは医師に詳しく自分の症状を説明し、自分に合った薬を処方してもらうことが必要になります。
うつ病の精神症状
うつ病には、大きく分けて2種類の症状があります。1つは「精神症状」と呼ばれるもので、もうひとつが「身体的症状」になります。
では、うつ病の「精神症状」とは、どのようなものなのでしょうか。
例えば、「ボーとすることが多い」、「口数が少なくなる」、「学校や会社を休みがちになる。あるいは、不登校になる」、「運動神経や記憶力が低下して、勉強や仕事ができない」、「人の話を聞かなくなる」。
このような症状が、「精神症状」の代表的なものです。
精神症状には、「抑うつ気分」と「興味や喜びの喪失」の2種類があります。
気分が落ち込んだり、いつも空虚感や悲しさを感じるという感覚や症状は、「仰うつ気分」に分類されます。
また、うつ病になると、興味や喜びを感じなくなることがあります。それまでは楽しいと感じていたことも、うつ病になると、感情が麻痺してしまい、楽しいとは感じなくなるのです。これを、「興味や喜びの喪失」といいます。
「仰うつ気分」か、「興味や喜びの喪失」の、どちらかの症状が、うつ病の診断の必須症状となっています。また、うつ病の初期段階では、精神症状が全くなく、身体的症状のみの場合もあります。身体的症状が先に現れ、後に精神症状が現れることもあるということを覚えておきましょう。
うつ病の身体的症状
うつ病は、心の病ではありますが、気分がすぐれなかったり、うつ状態になったりという、精神的な症状以外に、身体的な症状も現れます。
患者さんの中には、まずは身体的な症状が現れて、体調が悪いなと思い始めたら、次に精神症状が現れたというケースもあります。
具体的には、どのような身体的な症状が現れるのでしょうか?
例えば、「頭が割れるように痛い」、「夜なかなか眠ることができないなどの、不眠症状」、「急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍などの消化器系の疾患」、「摂食障害」、「腰痛や頭痛など、いろいろな部位の痛み」などが、身体的な症状になります。
摂食障害の症状が現れると、食欲が極端になくなり、急激に体重が落ちたり、逆に過食になって体重が増加したり、あるいは、それらの食生活で胃や消化器系に支障が出たりという症状も現れます。また、不眠症状の場合は、イライラ感が伴ったりもします。
そして、これらの身体的症状がいくつも現れ、結果的には、「食欲がなくて痩せてしまい、頭痛がして眠れないのでいつもイライラしている」といった状態になります。
このような身体的症状は、重症になると治療も簡単ではありません。おかしいなと思ったら、早めに医師に診察してもらうようにしましょう。
うつ病になったら?
もし、病院でうつ病と診断されたら、まずは医師のアドバイスや処方箋を守りながら、治療を根気強く続けることが大切にです。
昔は、うつ病というのは、「ほおっておけば治る」とか、「本人の気の持ちよう」などと考えられていたことがありますが、現代では、うつ病は、誰でもなる可能性があり治療によって治る病気でもあります。自分がうつ病であることを、しっかりと認識することから、うつ病の治療は始まります。
仰うつ症状や、不眠や、摂食障害など、様々な症状が現れているにもかかわらず、「私は、うつ病などではない」と思い込んでいると、治療が遅れ、症状は悪化する一方です。ですから、「うつ病であるということを、患者さん本人と、患者さんの家族が認識することが大事になります。
そして、もしうつ病になったら、まずは無理をせず、心身ともに休みを取ることが必要です。無理に頑張って、努力して治そうと考えると、一層症状が悪化することもあります。どんなに重症でも、必ず治るのだと希望を持ち続けて、時間をかけて治療に専念しましょう。学校や会社などをしばらく休むことも必要ですし、もし家事や家の仕事がある場合も、家族に協力してもらい、その役割を免除してもらいましょう。
うつ状態とうつ病の違い
憂鬱な気分や、仰うつ状態が続いていても、必ずしもうつ病であるとは限りません。うつ状態は、うつ病以外の様々な病気によって現れることがあるのです。
例えば、一時的なストレスが原因の「急性ストレス障害」や「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」、「適応障害」などでも、うつ状態が現れます。また、「自律神経失調症」、「パニック障害」などの精神疾患でもうつ状態は現れます。人によっては、季節の変化や体のリズムの変調などによってうつ状態になる人もいます。
精神的なものばかりが、うつ状態の原因というわけではありません。「脳腫瘍」、「パーキンソン病」などの中枢神経系の疾患、「関節リュウマチ」などの炎症性疾患、「橋本病」などの甲状腺の疾患、「アジソン病」などの副腎疾患、副甲状腺の疾患などでも、うつ状態は現れます。また、歯科治療用の重金属中毒も、うつ状態を招くことがあります。
もし、うつ状態が2週間以上毎日続き、日常生活に支障をきたす状態となった場合には、うつ病と診断されます。このように、うつ状態とうつ病は、違う場合があります。また、うつ状態をおこす原因によっては、治療の方法も違います。ですから、安易に「うつ病」だと自分で判断せず、おかしいなと思ったら、医師に診察してもらうようにしましょう。
うつ病の認知行動療法
うつ病には、いくつかの治療方法があります。ですから、その人に合った治療方法を、医師と相談したうえで取り入れることになります。
うつ病の治療方法の一つに、認知行動療法と呼ばれるものがあります。
これは、かつてからあった行動療法と認知療法という2つの療法が一緒になったもので、近年になってから取り入れられるようになった治療方法です。
行動療法とは、「望ましくない行動の低減」や「望ましい行動の増大」のために、行動を制御することを目的としています。この療法は、比較的時間がかからず、費用もそれほどかからないものです。
認知療法とは、認知の歪みを修正するために、反対の証言や、多面的な解釈ができるように手助けをすることで症状を軽くする療法です。認知療法によって、苦しみが少なくなったり、悩みがあっても建設的な考え方や行動ができるようになります。
この2つの療法を取り入れた認知行動療法によって、自分の認知が歪んでいることを自覚させ、自分を取り巻く環境や出来事の認識の仕方を変えていきます。そして、認知の歪みを治し、感情や気分をコントロールすることができるようにします。
対人関係療法も、認知行動療法の手法を取り入れたものになります。
うつ病のそのほかの治療法
うつ病には、いろいろな治療方法があります。
まず、代表的なものは、薬物療法です。これは、抗うつ剤を服用して治療していく方法です。
薬物療法以外でよく取り入れられるのが、認知行動療法です。
それ以外にも、「電気けいれん療法」、「経頭蓋磁気刺激法」、「断眠療法」、「光療法」、「運動療法」、「ハーブを使用した治療」などがあります。
「電気けいれん療法」とは、頭皮の上から電流を流して、人工的に痙攣をおこす方法です。これは、薬物療法が効かない場合に取り入れられる場合があります。この療法は、保険の適応も認められています。
「経頭蓋磁気刺激法」は、頭の外から電磁パルスを当てて、脳内のごく一部に電流を流し、脳の機能を活性化する方法です。
「断眠療法」は、夜間に眠らないことでうつ症状を改善する療法で、「光療法」は、太陽光や人口光などの強い光を浴びる療法です。
「運動療法」は、有酸素運動を行って治療につなげるというもので、入院患者が日課とする療法でもあります。
また、ハーブのセント・ジョーンズ・ワートは、ドイツなど数カ国で、軽いうつ病に効果があるとされ、抗うつ薬よりも多く処方されています。副作用がないことも知られていますが、重度のうつ症状には、あまり効果がありません。
うつ病患者の方への家族の接し方
家族や周囲に、うつ病の患者さんがいる場合、どのように接したらいいのでしょうか。うつ病の患者さんと接するのが初めてという場合は、手助けをしてあげたいと思っても、どのように言葉をかけたらいいのか分からなかったり、あるいは、患者さんのことを思って言った言葉が、むしろ逆効果であったりすることもあります。
そのために、うつ病の患者さんについて、正確に理解することが必要になってきます。
うつ病の患者さんの多くは、死への思いを持つようになります。場合によっては、取り返しのつかない事態も、招きかねませんので、慎重な言葉や対応が求められます。
実は、自殺行為は、うつ状態のどん底で起こるのではなく、その前後でも起こりうることです。症状がひどい時はもちろんのこと、やや軽くなってきたという場合も、十分な配慮をしましょう。
また、うつ病になると、様々なことに対して、やる気がなくなります。やる気がないというのは、一見、性格や気持ちの弱さと思いがちですが、病気の症状の一つであることを忘れないようにしましょう。
やる気がないからといって、患者さんを責めないようにしましょう。人が変わってしまったように無気力に見えるかもしれませんが、病気が治れば、その症状が消えます。落ち着いて、冷静な対応や行動を心がけましょう。
うつ病治療で評判の病院探し
うつ状態が続いたり、もしかるするとうつ病でないかと疑わしい状態が続いた場合は、早めに病院で診察を受けることをお勧めします。
といっても、これまでうつ病になったことがないという人にとっては、どこの病院に行ったらいいのか分からないものです。
よく、精神科や心療内科、神経科、といった診療科目を聞くことがありますが、うつ病と疑わしい場合は、どこで診察を受けたらいいのでしょうか。
正確には、うつ病は精神科の専門領域になります。心療内科でも、心の病の診察をしてくれますが、比較的軽度のうつ病が担当分野になっています。ですから、まずは心療内科で診察を受けて、もし精神科での診察を進められた場合は、精神科で改めて診察してもらうというのも、方法の一つになります。
ただし、精神科は、患者さん本人にとって行きづらいこともあるでしょう。そのために、本来は精神科の専門医師が診察してくれるクリニックなどでも、心療内科と名乗っている場合もあります。精神科と心療内科の両方を専門にしている医師に診察してもらうというのも、いい方法です。
また、うつ病の症状が現れると、外出がつらいと思うことも多々あります。ですから、まずは、近所のクリニックや病院などへ行ってみるといいでしょう。