パニック障害とは?
パニック障害という病名は、最近では、非常によく聞くようになりました。身近にパニック障害の患者さんがいるという方も、いらっしゃるでしょう。
パニック障害は、強い不安感が主な症状の精神疾患です。英語では、Panic disorder(パニック・ディソーダー)といわれるため、PDと略して呼ばれることもあります。
もともとは、不安神経症と呼ばれていたものの一部です。1980年に米国精神医学会によって、診断分類のひとつに加えられ、1992年に世界保健機構(WHO)の国際疾病分類によって、独立した病名として登録されました。
パニック障害という病名からは、つい、心の病と思いがちかもしれませんが、最近では、脳機能障害として扱われています。
パニック障害の症状は、突然のパニック発作から始まります。そして、その発作が再び現れるのではないかと恐れる「予期不安」と、それに伴う症状の慢性化が、典型的な症状になります。
症状が長期化すると、発作が起きた時に逃げられない場面を回避したいがために、生活範囲を限定してしまう、「広場恐怖症」が現れます。
有名人や芸能人などで、パニック障害を患っているとか、パニック障害を克服したという方もいるため、比較的新しい病名ではあるものの、広く認知されています。
パニック障害の症状
パニック障害の症状は、突然のパニック発作から始まります。このパニック発作は、日常的にストレスをため込みやすい環境で暮らしている人に起こることが多いです。
例えば、満員電車の中など人が混雑している閉鎖的な狭い空間や、車道や広場などで歩いているときに、突然強いストレスを感じ、動悸、息切れ、めまいなどの症状が現れます。そして、強烈な不安感に襲われます。
パニック発作の症状や度合いは、患者さんによって様々ですが、発作が現れるときに感じる心理的な印象は、漠然とした不安と空間の圧迫感で、「倒れて死ぬのではないか」という異常な恐怖感を感じる人も少なくありません。
そして、パニック発作に強烈な恐怖を感じるため、発作が起こった場面を恐れ、また発作が起こることに、不安になります。これを、予期不安といいます。
また、パニック発作が繰り返されると、発作が起きた場所から逃れられないという妄想するようになり、1人で外出できなくなるなど、広場恐怖の症状も現れます。
予期不安によって、社会的に隔絶された状態になると、ストレスによってうつ状態にもなります。特に、繰り返しのパニック発作は、うつ状態を併発することが多く、実際に、うつ病と診断されるケースも多くあります。このようなケースを、二次的うつと呼んでいます。
パニック障害の原因
パニック障害の原因は、脳内不安神経機構の異常だと考えられていますが、いまだ、完全には解明されていません。
人の脳には、無数の神経細胞があり、その間を情報が伝わって、運動・知覚・感情・自律神経などが働きます。パニック発作や予期不安なども、脳の神経細胞の間を情報が伝わって起こるものですが、何らかの誤作動が生じていると考えられています。情報を伝える神経伝達物質や、情報を受け止める受容体(レセプター)の機能に異常が起こっているのではないかと考えている研究者もいます。
パニック障害の原因は、完全には解明されていませんが、いくつかの仮説があります。「ノルアドレナリン仮説」、「セロトニン仮説」、「ギャバ・ベンゾジアゼピン仮説」の3種類です。
ノルアドレナリンという神経伝達物質が脳で分泌されると、危険が迫った時に警告を発する神経が作動するようになっていますが、「ノルアドレナリン仮説」は、ノルアドレナリンが過剰分泌しているか、あるいは、受容体(レセプター)の過敏反応が起きていると仮説が立てられています。
セロトニンというのは、不安感が行きすぎないように抑える働きがある神経伝達物質ですが、このセロトニンが不足したり、あるいは受容体(レセプター)が鈍くなっているというのが、「セロトニン仮説」です。
「ギャバ・ベンゾジアゼピン仮説」とは、不安を抑える働きがある神経伝達物質ギャバの受容体(レセプター)や、連結しているベンゾジアゼピンの受容体(レセプター)の感受性に問題があるとしています。
パニック障害の診断
予期しないパニック発作が繰り返し起こり、発作に対する予期不安が1カ月以上続く場合は、パニック障害になる可能性が高くなります。臨床診断では、突然のパニック発作が起こり、予期不安を感じ、症状が繰り返され、後に広場恐怖の症状が現れるという過程も、重要になってきます。診断基準は、アメリカ精神医学会による基準が用いられることが多いです。
パニック障害には、大きく2種類に分けることができます。1つは広場恐怖の症状を伴う慢性化したパニック障害で、もう1つが、広場恐怖を伴わ症のパニック障害です。
PTSD、うつ病、強迫性障害なども、パニック発作を起こすことがありますが、この場合は、パニック障害とは診断されません。あくまでも、これらの病気の症状の一つと診断されます。
パニック障害は、概念の歴史が浅く、精神科や心療内科以外の診療科目では診断が困難なこともあります。また、中高年の医師は、学生時代にはパニック障害を学んでいないために、適切な診断がされずに、長期間誤った治療を受けてしまうことも考えられます。
もし、自分で、パニック発作が繰り返されたり、予期不安を長期に感じるような症状に気がついたら、精神科や神経科、あるいは心療内科を受診しましょう。
パニック障害を薬で治す
パニック障害は、薬物療法と精神療法の2つの方法があります。
薬物療法では、パニック発作を抑制するために、SSRIや三環系抗うつ薬、スルピリドなどの抗うつ薬が使われます。また、不安感を軽減するためには、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が使われます。
これらの薬は、有効性が明確になっており、とりわけ、適切な患者教育と指導を行いながらこれらの薬を服用すると、その有効性は非常に高くなります。
最近では、新型抗うつ薬のSSRIの有効性もよく言われています。しかし、SSRIの代表的な薬であるパロキセチンは、飲み忘れるなどで服用を中止すると、数日後に、激しいめまいや頭痛などの離脱症状が現れることが問題となっています。そのため、パニック障害で服用する際の、安全性や有用性に疑問を持っている人もいます。
アメリカでは、バンゾジアゼピン系の抗不安薬の依存性が取りざたされていますが、日本では、成人の定期的パニック障害では問題とならないという見解が多くあります。
いずれにしても、パニック障害の治療をする場合は、この病気にくわしい精神科や心療内科などの医師に診察してもらうことが、まずは大切になります。そして、医師の診断や処方箋に沿って、治療を進めていくようにしましょう。
パニック障害を精神療法で治す
パニック障害の治療には、薬物療法の他に精神療法があります。
パニック発作は、不可解な突然の発作と、発作に対する不安によって悪化する病気です。
医師が、これらの症状について明確に説明し、心理教育を行うことが、すべての治療の基礎となり、また、重要になります。
精神療法では、認知行動療法が最も良く研究されています。
認知行動療法では、「恐れている状況への暴露」、「身体感覚についての解釈の再構築」、「呼吸法」などの訓練や練習が行われます。そして、不安に振り回されずに、そして、不安から逃れずに、不安に立ち向かう練習を行います。
日本では、認知行動療法を行う施設は多くはありませんが、認知行動療法的な患者指導を行っている臨床医は多く存在します。
また、認知行動療法の他に、EMDRや森田療法、内観療法などを取り入れることも有効とされています。
EMDRとは、日本語では、眼球運動による脱感作および再処理法といわれるものです。比較的新しい治療技術で、特にPTSDに対する治療として有効だと知られています。
内観療法は、家族や身近な人との関わりを、「してもらったこと」「して返したこと」「迷惑をかけたこと」の3テーマにそって繰り返し思い出すという心理療法です。
パニック障害のセルフケア
パニック障害と診断されたら、まずは、医師の言うとおりに治療を進めることが、大切になります。
また、パニック障害の患者さんが行うセルフケアもありますので、いくつかご紹介します。
まずは、症状が改善するまで無理な運動はしないようにしましょう。特に、首の運動は、頭への血液循環の障害になることもありますので、例えば首を振るような運動は、控えるようにしましょう。
体を温めるというのも、セルフケアにつながります。体が冷えると、血液循環が悪くなり、頭への血液循環も悪くなります。そのために、症状が悪化することがありますので、体や首を温めるようにしましょう。
また、セルフケアのひとつにマッサージがあります。首の筋肉をマッサージして、頭への血流をよくすることが、有効に働きます。ただし、あまり強いマッサージや肩をたたくような方法は避けたほうがよいでしょう。
リラックスできる音楽を聞くというのも、よい方法です。好きな音楽には、精神的に落ち着きを与える効果があります。ですから、ストレスがたまった時や、パニック発作が起こりそうなときには、予防作用があります。
また、適切な栄養摂取も大切になります。心の病気であっても、基本的に人間の体は食べたもので作られますので、食事はとても重要な要素です。バランス良く適切な栄養分を摂取するように気遣いましょう。
パニック障害の人と接する時は?
もし、家族や身近な人に、パニック障害の患者さんがいる場合は、どのように接したらいいのか、困ってしまうことがあるかもしれません。パニック障害は、多くの人に認知されている病気ではありますが、まだまだ、どのように看護をするのか、あるいは、どのように接するのかなどは、知られていません。ここでは、パニック障害の患者さんと接するときのポイントを、いくつかご紹介します。パニック発作が起こってしまった場合は、その発作を緩和する手続きをしましょう。そして、発作が起きた原因をきちんと確認することが大切になります。原因となるものが分かったら、しばらくは、その原因となるものを利用しないようにしましょう。例えば、人ごみでパニック発作が起こるなら、しばらくは人ごみを避けるようにしたらよいでしょう。
そして、患者さんには、「病気なんだから、治療をすればきちんと治ります。安心しましょう」ということを理解してもらう必要があります。そして、周囲と助け合って、支えてあげるようにしましょう。
もちろん、医師の診察を受けて診察を続けることも大切ですので、もし、本人が、「なぜこのような症状が起こるのか分からない」という場合には、さりげなく、診察を進めてあげるといいでしょう。そして、病気をしっかりと治したいという気持ちを、患者さんに持ち続けてもらうことが治療につながります。
パニック障害と似た病気について
パニック障害の特徴は、突然パニック発作が起こることですが、実は、パニック障害と似た病気というものがあります。
それは、「バセドウ病」、「狭心症」、「褐色細胞腫」、「側頭葉てんかん」の4種類になります。
「バセドウ病」とは、甲状腺肥大や眼球突出、頻脈、手の震え、甲状腺機能亢進症などの症状を示す病気です。バセドウ病では、周期性四肢麻痺と呼ばれる、てんかん発作と同じような発作を起こすことがあります。車の運転中に発作が起こると事故につながりかねないため懸念されていますが、バセドウ病の発作は、パニック障害ではありません。
「狭心症」は、心臓の筋肉に酸素を送っている冠動脈の異常によって、一過性の胸痛や胸部圧迫感を感じる病気です。締め付けられるような痛みや、圧迫感が主な症状で、その他に、動悸、不整脈、呼吸困難、頭痛なども起こります。パニック発作ととても似た症状ですが、心臓の血管の異常が原因の病気です。
「褐色細胞腫」は、高血圧、代謝亢進、高血糖、頭痛、発汗過多などが主な症状の病気で、副腎皮質などから発生するカテコールアミン産生腫瘍になります。頭痛や発汗過多などは、パニック障害の症状と似ていますが、褐色細胞腫の場合は、外科手術で治療をします。
「てんかん」は、脳細胞のネットワークに起こる異常によって、てんかん発作を起こす病気です。パニック発作と非常に似ていますが、あくまでも脳疾患であり、精神疾患ではありません。
パニック障害になったら
もし、自分がパニック障害になったら、あるいは、パニック発作が起こったら、どのように対処したらいいのでしょうか。パニック発作は、全く予想できないような状況の中、突然起こるものです。もし、何度も発作が起こるという場合は、早めに、精神科や心療内科を受診するようにしましょう。そして、まずは、パニック発作が起こらないようにする治療をします。
パニック障害になると、「何が原因なんだろうか?」とか、「性格や人間関係の問題なんだろうか?」などと、いろいろ考え悩んでしまうこともあるかもしれません。しかし、いくら悩んでも、解決方法は見つかりません。そして、思い悩むあまり、症状が悪化してしまうこともあります。
パニック障害は、非常につらい症状が続きますが、命に関わるような重大な結果をもたらす病気ではありません。1つの病気であると認めて、医師と相談しながら、前向きに治療に取り組むことが大切になります。
パニック障害になった患者さんは、治療を始めた初期段階では、早く回復することを望むために、医師の指示どおりに薬物治療や精神治療を行います。しかし、発作が落ち着いてくると、薬に頼りたくないとか、副作用が心配だなどと考え、薬物治療を途中でやめてしまうケースが少なくありません。
しかし、急に薬物治療を中断すると、症状が再燃することがあります。また、症状が、慢性化してしまうことも考えられます。