多重人格とは?
- 病名の変化
みなさんは、二重人格を含む「多重人格」(Multiple Personality Disorder:MPD)の別名を知っていますか?
それは、解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder:DID)です。
この名は、1994年に『DSM-Ⅳ』(『精神障害の診断・統計マニュアル』第4版)から使われ始めました。多重人格について調べたい場合は、この名も知っておくといいでしょう。
では、この名に使われている「解離性」「同一性」とはなんでしょうか?
解離性とは「解離性障害」の言葉から来ています。多重人格は、この1種です。
これと解離については、「解離に関して・症状・統合失調症との違い」の章の「解離と解離性障害」で詳しくご紹介します。
そして、同一性は「自我同一性(アイデンティティ)」を表しています。言い換えれば、解離性同一性障害は「解離性のある、自我同一性に関したもの」となります。
この名称を新たに使うことで、多重人格の特徴がより明らかになったのですが、現在でも「多重人格」の言葉は広く使われています。
なお、二重人格は「多重人格」と表される前の名として使われてもいました。たとえば、イアン・ハッキングは『記憶を書きかえる――多重人格と心のメカニズム』でルイ・ヴィーヴを挙げています。
彼は、はっきり区別のつく2つ以上の人格を持っていましたが、1885年になるまでは「二重人格」とされていました。
著者は本の中で、彼を「最初に「多重人格」とされた人物」と書いています。
- 古典的・現代的多重人格
多重人格は19世紀末から20世紀初めまで、盛んに研究されていました。しかし、1920年代からはしばらく、その動きが衰退することとなりました。
ふたたび盛んとなったのは、1970年代です。
この時期の研究により、1920年代以前にも考えられていた多重人格と心的外傷(トラウマ)の深い関係が、明らかになりました。
一丸藤太郎は『臨床心理学大系 第17巻 心的外傷の臨床』で、多重人格に見られるタイプを、「古典的多重人格」と「現代的多重人格」に分けました。
まず、古典的多重人格は二つのタイプに分けることができます。
- 慢性的、または急激な強いストレスからの「心的エネルギーの低下」が原因
- 対象喪失、性被害からの心的外傷が原因
1については次の通りです。
《原因の具体例》
結婚生活や親の介護
《交代人格(もっとも頻繁に体を動かす「主人格(ホスト)」以外の人格)の数》
2~3
《治療方法》
短期間の休息で比較的治る
一方、2については次の通りです。
《原因の具体例》
対象喪失は失恋や大切な人の死、性被害はレイプ
《交代人格の数》
2~5
《一緒に出る症状》
ヒステリー・パーソナリティー(わざとらしい・おおげさの特徴を持つ人格)
抑うつ
解離性症状
《一緒に出る行動》
自殺を考える
自分を傷つける
《背景》
ヒステリー・パーソナリティーのような特有の人格傾向
特有の生育環境・生育歴
※当てはまる生育環境の具体例
- 親がやさしい人になったり、暴力的な人になったりする
- 親がやり過ぎなくらいに道徳的であることを求めるのに、その親が反した行動をしている。
- 大家族
※当てはまる生育歴の具体例
- 頻繁に住む場所を変える
- 経済環境が急に変わる
- 母親とじゅうぶんな信頼関係が築けず、代理となった人が死んだ
- 親友の死
- 失恋
《治療方法》
治療する人が特別に働きかけなくても、心理療法で治せる
一方、現代的多重人格は、次の通りです。
《原因》
性的・身体的虐待を中心とした、幼児期からの長期にわたる虐待
《交代人格の数》
6~
《一緒に出る症状》
シュナイダーの第一級症状
境界性人格障害など
《一緒に出る行動》
自殺を考える
深刻なくらい自分を傷つける
暴力
犯罪
やり過ぎなくらい、性的に逸脱した行動など
《治療方法》
特別な働きかけを積極的にする
心的外傷への心理療法
薬物療法
危機にあう場合の入院治療
原因は古典的多重人格のタイプ2に似ていますが、幼児期にあったか・長期かの部分に違いがあるでしょう。
1970年代以降に報告された多重人格は、おもに現代的多重人格です。
解離に関して・症状・統合失調症との違い
- 解離と解離性障害
多重人格は別名「解離性同一性障害」と呼ばれています。
「解離性」は、多重人格が「解離性障害」の1種であることを表します。
解離とは意識・記憶・人格のような通常統合されている機能が崩れてしまうことです。
この言葉は1907年、ピエール・ジャネによって初めて使われましたが、アンリ・エレンベルガーが1970年に紹介するまで忘れられることとなります。
病気のない人でも、白昼夢やディスコでの激しい陶酔などによって解離を体験します。
病気を起こすくらいの解離は、虐待などによる心的外傷(トラウマ)を処理するために起こされます。
普段の意識とは断裂した別の意識へ記憶を置くことで、忘れてしまうのです。
言い換えれば、解離は「人生を生き延びるための手段」です。
「生きる奇跡」「知性的に編み出した方法」「才能のある友人をたくさん持っている状態」と表現された例もあります。
しかし、逆に「幼い子どもの心をばらばらにすること」としている人もいます。
そして、多重人格を含んだ解離性障害は1980年の『DSM-Ⅲ-R』(『精神障害の診断・統計マニュアル』第3版の改訂版)で初めて使われました。
自分の命が脅かされるような場面や、解決不可能な問題などによって起こります。
診断名の一覧は、次の通りです。
《心因性健忘》
大切な個人情報を、急に思い出せなくなる。
非常に広い範囲を忘れ、普段起こる物忘れとしては説明できない。
《心因性遁走》
家庭や職場から、突然放浪する。
新しい自我同一性(アイデンティティ)が取って代わり、過去を思い出せなくなる。
《離人症性障害》
離人症状エピソード(通常の現実感覚が失われたり、変わったりすること)が持続・反復し、明らかな苦痛を起こすほど重い。
《特定不能の解離性障害》
『DSM-Ⅲ-R』にあったカテゴリー。
解離症状がおもとなっているが、上に挙げた解離性障害に当てはまらない。
症状としては他に、外からの刺激に対する感覚遮断・失立・失歩・失声が挙げられます。
ただ、他の精神的な病気が原因で起こっている場合は当てはまりません。
症状
《解離性症状》
- 健忘
- 遁走
- 自己意識の不調(離人症・現実感喪失・自我同一性(アイデンティティ)の混乱・体外離脱体験など)
症状だと自覚されていない場合もあり、治療初期にすべて把握することはできません。
心因性健忘や遁走、離人症は「解離と解離性障害」で詳しくご紹介しています。
《情動・衝動の調節が不調》
1. 情動に関して
怒りの調節が上手くできない・感情麻痺・抑うつ・気分変動・不安・恐怖など
2. 衝動の制御が上手くできない
3. 依存症
アルコールや薬など、物の乱用・ギャンブル依存・摂食障害・性に関した特定の依存
4. 自殺を考える・リストカット
5. 犯罪などの反社会的行動
《統合失調症(精神分裂病)と重なる症状》
統合失調症の診断基準「シュナイダーの第一級症状」11個の内、平均3.4~6.6個当てはまります。
中でも「幻聴」は多重人格の人に、1番よく見られる症状です。
「頭の中の声」「自分の内部にある声」と言ってきます。
一方、統合失調症の人は「外部から侵入してくる声」と言います。
詳しくは、「多重人格・統合失調症の幻聴」でご紹介します。
《身体症状》
1. 痛み
頻回の激しい頭痛・四肢の疼痛・慢性痛・腹痛など
2. 性的疾患
3. 睡眠障害・悪夢
4. その他
感覚や運動機能の麻痺・けいれん・失声・呼吸困難・飲み込むことの困難・嘔吐・消化器症状・昏迷したような症状・体の病気ではないのに、そのような症状が出る
とくに、「頻回の激しい頭痛」はよく伝えられる症状です。
性的疾患については、虐待が原因であるとも考えられえています。
《自己評価・人間関係の構築が上手くできない》
1. 自己評価に関して
基底欠損を認める・自己評価が低い
2. 人間関係に関して
緊張しやすい・見覚えのないことで責められやすいと感じる・控え目になって孤立したり、やり過ぎなくらい依存する・見捨てられる不安を持つ
多重人格と診断される人の中には、社会に上手くなじめないが、能力の高い人もいます。
《再犠牲化》
幼少期に体験した外傷体験を再現するような危険に、自分の身をさらすことです。
くり返し起こる強迫観念から生じ、児童虐待を受けた人に多く見られます。
以上が、症状です。
他の精神的な病気に見られる症状と、大きく重なっています。
そのため、誤診されて治療の成功しないケースが多くあります。
- 多重人格と統合失調症の違い
多重人格の人に下される誤診の1つに「統合失調症(精神分裂病)」があります。
1920年代に多重人格の研究が衰退した理由は、この診断名が使われ始めたからです。
この病気の診断基準「シュナイダーの第一級症状」11個の内、平均3.4~6.6が多重人格の人に当てはまります。
多重人格と統合失調症の違いを、次から挙げていきます。
なお、幻聴については「多重人格・統合失調症の幻聴」で詳しくご紹介します。
《分裂するもの》
1. 多重人格
思考・感情・行動を統制する「自我同一性(アイデンティティ)」が分裂します。
言い換えれば、「私」や「俺」、「僕」という1つの統制機関が分裂するのです。
2. 統合失調症
統制機関のまとめる「思考・感情・行動」という個々の機能が分裂します。
思考の末出そうと決めた感情と実際に出た感情、心の中にある感情と肉体の反応から推測される感情の間に、違いが出てきたりするのです。
《論理と現実への感覚》
1. 多重人格
論理と現実への感覚に「問題はない」とされますが、断片化されていきます。
2. 統合失調症
認識力と秩序観の喪失から、論理と現実への感覚に「問題がある」とされます。
《統合失調症のような症状の出る期間》
1. 多重人格
統合失調症のような症状を見せますが、「短期間」でなるものとされています。
2. 統合失調症
診断が下される基準は『DSM-Ⅳ』(『精神障害の診断・統計マニュアル』第4版)の場合「少なくとも6ヶ月」、『ICC-10』(WHОの発行している、国際疾病分類の改訂版)の場合「1ヶ月」です。
《陰性症状の有無》
統合失調症の症状には、「陽性症状」と「陰性症状」があります。
シュナイダーの第一級症状は、すべて陽性症状です。
例としては幻聴・自分の考えていることが声になって聞こえる・自分の行動や考えが、外部によって支配されていると考える体験が挙げられます。
陽性症状は「普段は起こさないような行動」とされ、周りの人びとに驚きを与える症状です。
一方、陰性症状の例は突然起こる短時間の意識消失や動作停止、まったく起伏のない感情が挙げられます。
多重人格では、この症状が挙げられません。
多重人格・統合失調症の幻聴
シュナイダーの第一級症状中、1番多重人格の人に見られる症状は「幻聴」です。
多重人格と統合失調症の幻聴には、次の違いがあります。
《聞こえてくる声がいつのものか》
1. 多重人格
過去に聞いた声が聞こえてきます。
2. 統合失調症
現在語られている声(外部からと言われることが多い)が聞こえてきます。
《聞こえる状況と手段》
1. 多重人格
音調や状況が、声と一緒に生なましく再生されます。
音調は一定です。
聞かせている手段より、生なましく再生される過去の状況が問題とされます。
2. 統合失調症
通常、状況が具体的に語られません。
音調は、しだいに起伏のないものへと変わっていきます。
状況は問題とされず、語る手段の方が問題とされます。
《持続時間・夢に出てくるか》
1. 多重人格
一瞬しか持続せず、夢にも出てきます。
2.統合失調症
持続的で、通常夢には出てきません。
出たときは、症状のなくなる時と言われています。
《言葉で上手く説明でき、自分から呼び起こせるか》
1. 多重人格
はっきり、生き生きとした言葉で説明できます。
呼び起こそうとすると、できる場合が多いです。
2. 統合失調症
言葉で説明できず、しても反復・単調・非現実的な説明となってしまいます。
呼び起こそうとする積極性は、通常ありません。
《薬の効果・消滅するか》
1. 多重人格
薬の効果は薄いです。
消滅するというより遠くなって衝動が薄れる状態となり、長年経っても再生できます。
2. 統合失調症
薬の効果は通常かなりあります。
幻聴は完全に消滅させることができます。
以上です。
岡﨑順子は『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』で、多重人格の幻聴は「頭の中の声」「自分の内部にある声」、統合失調症の幻聴は「外部から侵入してくる声」と区別しています。
原因
- クラフト・ロスの説
多重人格の原因を説明したものとして、リチャード・クラフトの挙げた4因子が有名となっています。
それらは、次の通りです。
1. 多重人格の人が生まれつき持っている、解離になりやすい傾向
心的外傷(トラウマ)を処理して生き延びるための生物学的(自然な)反応として、解離を引き起こすのが多重人格につながるとされています。
このように、病的な解離になっていきやすい傾向に関して「もろくて弱い性質」があるかもしれないと考えられています。
似た症例も報告されているようです。
2. 性的虐待などの心的外傷
幼少期の児童虐待も、この因子に当てはまります。
フランク・パットナムは子どもを狭く暗い場所に閉じ込め拘束する「監禁状態」も、当てはまると指摘しています。
3. 虐待などの外部から与えられる心的外傷に対して、生まれつき起こしやすい病的な解離が生じ習慣化していくこと
4. 心的外傷を癒す、家庭や地域の機能が不足している
岡﨑順子は『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』で、この因子を「――――子どものネグレクトや孤立に関する項目――――」(P、260)と書き、岡野憲一郎が『外傷性精神障害』(1995年11月 岩崎学術出版社)で指摘している「身体的・情緒的ネグレクトや養育放棄」に近いとしています。
以上です。
なお、この説に関して問題が提示されているため、これを「説の不確定性」で詳しくご紹介します。
クラフトの4因子説とは別に、コリン・ロスは次の4経路を挙げました。
数字の表記を変更して、次に引用します。
1. 児童虐待経路
- ネグレクト経路
- 虚偽性障害経路
- 医原性経路
(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、261~262なお、元は「Ross,1996」より)
1はクラフトの4因子の2、2は4に近いとされています。
そして、3は「治療」の章にある「注意されること2」、4は「治療」の章にある「催眠療法」で関連したことをご紹介しています。
- 虐待とPTSD
多重人格になる原因として強く意識されているのが、「児童虐待」です。
これを受けた多重人格の症例が、多く報告されています。
そのため、多重人格はPTSD(外傷後ストレス障害)の1つとして考えられようになりました。
PTSDとは、強い恐怖感を伴うできごとが原因で起こるもので、次の症状が出ます。
1. 覚醒時や夢で、再体験する
2.1の症状から回避しようと思い出せなくなったり、感情が麻痺したようになったりする
3. 何かを意識し過ぎた「過覚醒状態」にもなる
これらの症状が1ヶ月以上続くと下される診断名で、2日~4週間以内だと「急性ストレス障害」になります。
また、多重人格は解離性障害の1種です。
解離性障害については、「解離に関して・症状・統合失調症との違い」の章の「解離と解離性障害」で詳しくご紹介しています。
これは原則的に、外傷性記憶を伴うとされています。
通常の解離性障害が1回の外傷体験でも生じるのに対し、重度の解離性障害とされる多重人格は、児童虐待のような反復性の外傷体験と強く結びついていると言います。
アメリカで外傷性精神障害の第一人者とされるJ.L.ハーマンは、1回限りの心的外傷による後遺症と、反復性の心的外傷による後遺症を分けた方がいいとしました。
この内、後の方は「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」と呼ばれ、多重人格も含まれます。
心的外傷は1907年ピエール・ジャネによってすでに注目されていましたが、1970年代になるまでは忘れられていました。
児童・性的虐待への注目やベトナム帰還兵にPTSDが見られたことから、ふたたび研究されるようになったのです。
日本では、1995年の阪神・淡路大震災からPTSDが有名になり、精神科の診察でも念頭に置かれるようになりました。
その結果、児童虐待を受けたことのある子どもや犯罪の被害者、偶然い合せた人が酷い心的外傷を負っていることがあらためて注目されていました。
ただ、この状態が「「まだ」注目の段階である」と言い換えられることに注意です。
児童虐待を受けた経験のない多重人格の症例も増えてきていて、児童虐待を多重人格の原因として意識し過ぎるのは慎んだ方がいいと指摘されているのです。
このことについては、「説の不確定性1・2」でイアン・ハッキングの論を例に挙げて、詳しくご紹介しています。
- 説の不確定性1
イアン・ハッキングは『記憶を書きかえる――多重人格と心のメカニズム』で多重人格の原因を説明した「リチャード・クラフトの4因子説」を紹介しています。
これについては、「クラフト・ロスの説」で詳しくご紹介しています。
そして、「――――解離能力を持つ子供――――」(P、110)の表現に注目し、多くの文献がこの能力を生まれつき・遺伝的なものとして示唆していると指摘します。
この示唆には、2つの重要な要素が含まれています。
1. 解離は連続した線として表せる
もっとも解離しやすい人・しにくい人を両端に置くことで、すべての人を連続した直線内に順番つきで並べることができます。
ここから、解離を程度の大小のみで論じることが可能だと、仮定が立てられるのです。
2. 解離のしやすさが遺伝される可能性
1の要素から考えられた仮定から、浮かぶ要素です。
2のように遺伝学的な志向を持つ主張は、立証が非常に難しいのです。
ハッキングはこのような相関関係に対して、くれぐれも慎重に臨まなければならないとしています。
この指摘については、「説の不確定性2」に続きます。
- 説の不確定性・2
「説の不確定性1」では、イアン・ハッキングが『記憶を書きかえる――多重人格と心のメカニズム』で「リチャード・クラフトの4因子説」から考えたことをご紹介しました。
続けて、彼はクラフトのような説を支えていると考えられる、3つの証拠を挙げています。
《幼少期の心的外傷(トラウマ)や、とくに繰り返された性的虐待が大人になって、精神医学に関したある後遺症になること》
あくまでも、そう変わる「かもしれない」です。
大量の口承伝説が、このことの裏づけとされています。
しかし、合意が得られて確定した特定の関連知識は、ほとんどないようです。
有望な取り組みとして「PTSD(外傷後ストレス障害)に関する研究」はありますが、多重人格を理解する上での手がかりとなる明確な見通しにはなっていないと、ハッキングは指摘しています。
《臨床体験》
多重人格の人が説に合わせて自分の解離を説明する危険性があります。
治療の際、本当でないことが事実に変わってしまうかもしれないのです。
これはコリン・ロスが多重人格の原因の1つとして「医原性経路」を挙げていることからも言えます。
《子どもの中で発達する多重人格の調査》
多重人格の原因が幼少期に始まるのなら、その時に治せば未来を改善することができます。
そのため、交代人格や人格断片が完全にできていない子どもの多重人格を見出すことが、治療での非常に大きな目的となったのです。
ハッキングはフランク・パットナムの説もクラフトの4因子説と共に、反論の対象としています。
精神の動揺した子どもと多重人格の関連を知るためにこのような子どもを綿密に調査するのは、パットナムの説の長所だと言います。
しかし、多重人格を「子ども-大人」と連続したように考えるのは矛盾をはらんでいると指摘します。
幼少期に治療を受けなければ、その内に多重人格の徴候が現れてしまうことになるためです。
子どもの多重人格は、大人の多重人格とは違うのです。
以上です。
イアンは幼児期に繰り返された虐待が多重人格の原因となることを発見していず、これのみが原因だと考えるべきではないと指摘しています。
たしかに、
クライエントが虐待を受けたと報告したものであり、その事実を確かめるような情報に裏づけられたものではない
(『臨床心理学大系 第17巻 心的外傷の臨床』P、127)
改めて注目されている
(『臨床心理学大系 第20巻 子どもの心理臨床』P、287)
といった言葉が見られます。
後の方は「「まだ」注目の段階である」と考えることもできるのです。
今まで書いた指摘から考えられる結果は、一丸藤太郎の指摘した「いくつかに分けられる多重人格のタイプ」でしょう。
これについては、「多重人格って何?」の章の「古典的・現代的多重人格」で詳しくご紹介しています。
ただ、「説の不確定性1・2」に挙げたハッキングの指摘は1995年時点でのものです。
ここにご注意下さい。
- 心的現実と心的外傷
1920年代に多重人格の研究を衰退させる原因の1つを作ったジークムント・フロイトは最初、心的外傷(トラウマ)に注目していました。
しかし、その注目は後に「心的現実」へと移ることになります。
心的現実とは、過去の体験自体を表す言葉です。
これと違って、心的外傷は過去の体験が「現在、どのような扱いとなっているか」を表します。
「過去の体験」という現実ではなく、「そう呼ばれている現在の記憶」とも考えられるのです。
一丸藤太郎は『臨床心理学大系 第17巻 心的外傷の臨床』で、心的外傷論のみならず心的現実論も共に扱い、統合させる必要があると指摘しています。
心的外傷のみに注目しようと意識し過ぎて、事実とは違う記憶の形成・強化を起こしてしまう可能性を否定できないためです。
これは、「説の不確定性1・2」で詳しくご紹介した「児童虐待のみが、多重人格の原因と考えるべきではない」に通じているでしょう
診断
- 『DSM-Ⅳ』の診断基準
『DSM-Ⅳ』(『精神障害の診断・統計マニュアル』第4版)によると、多重人格の診断基準は次の通りになっています。
- 2つまたはそれ以上の、はっきりと他と区別される同一性(アイデンティティ――こちらで付けた注)または人格状態(その各々は,環境および自己について知覚し、かかわり、思考する比較的持続する独自の様式をもっている)。
- これらの同一性または人格状態の少なくとも2つが、反復的に、患者の行動を統制する。
- 重要な個人的情報の想起が不能であり、ふつうの物忘れでは説明できないほど強い。
- この障害は、物質(例:アルコール中毒時のブラックアウト(記憶喪失――こちらで書いた注)または混乱した行動)または他の一般身体疾患(例:複雑部分発作)の直接的な生理学的作用によるものではない。
注:子どもの場合、その症状が、想像上の遊び仲間または他の空想遊びに由来するものではない。
(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、259 なお、元は『DSM-Ⅳ』より)
1つ前の『DSM-Ⅲ-R』、2つ前の『DSM-Ⅲ』を踏まえたこの診断基準では、2つの点が変更されています。
《診断基準C(健忘の有無)の追加》
交代人格間の関係は
「お互いにもう一方を知っている」
「片方だけがもう一方を知っている」
「お互いにもう一方を知っている」
の3タイプに分かれます。
実際には、1人の中でこれらのタイプが複雑に絡んでいるのです。
この内、1番上に書いたタイプは健忘が生じないとされ、多重人格とは診断されません。
『DSM-Ⅳ』の発行される前、健忘の有無に関する判断を巡って混乱が生じていました。
また、健忘の認められない人を含めると、他の病気と混同されてしまうのです。
診断基準Cは、この経緯から追加されました。
《言葉の変更》
「2つ以上の異なる人格」→「他と区別される同一性」
「人格」→「同一性」
(『臨床心理学大系 第17巻 心的外傷の臨床』P、120 なお、元は『DSM-Ⅳ』より)
と変更されました。
また、日本語訳される前の原版では診断基準Aにある「――――existence――――」(上の2つと同じ、元は『DSM-Ⅲ-R』)が「――――presence――――」(上の2つと同じ、元は『DSM-Ⅳ』)と変更されています。
日本語版では「存在」と訳されています。
「人格が存在する」だと、複数の人が本当にいると強く印象付けられてしまうのです。
本当に大切とされているのは「そういう体験をしたこと」であると言います。
以上です。
『DSM-Ⅳ』の診断基準では明らかに「健忘」が認められること、2つ以上の同一性がある体験をしていることが重要とされるのです。
発症率と特有のアプローチ
多重人格は診断の困難なことから、発症率に関する議論が多くなされています。
積極的に取り組んできたリチャード・クラフト、コリン・ロス、フランク・パットナムは発症率を「精神科入院患者の5%」「全人口の1%」としています。
『DSM-Ⅳ』(『精神障害の診断・統計マニュアル』第4版)では、報告される症例の増加を明らかにしています。
ただ、発症率自体は示されていません。
発症率に関して、暗示にかかりやすい性質から多重人格でないのにそう診断される症例がある、という批判があります。
そうなる理由の一つとして挙げられているのが、「クラフトを初めとする、多重人格へ積極的に取り組んできた専門家特有の診断的・心理療法的アプローチ」です。
クラフトは専門家が多重人格へ積極的になり精通すれば、すべての多重人格の内およそ20%は診断できると言いました。
そして、残り80%の半分40%は工夫した方法で診断できるとしました。
特有の診断的・心理療法的アプローチは、このような診断の難しい多重人格のために行われることとなったのです。
アプローチは、多重人格に当てはまりそうな徴候の見られる人から、交代人格を「呼び出す」という積極的な関わりをするものです。
その徴候は、専門家によって異なっています。
ただ、別々の徴候にも共通点の見られることはあります。
例として、クラフトとロスの定めた徴候に見られる共通点を次へ挙げてみました。
1. 過去の治療が失敗している
- 記憶に抜け落ちたところが存在する
- 頭の中から聞こえてくる幻聴がある
- シュナイダーの第一級症状(統合失調症(精神分裂病)の診断基準)にある症状が見られる
- 虐待を受けたことがある
別々の徴候に見られる共通点は、さらに信頼性が増すでしょう。
- アンケートによる診断
健忘や幻聴、自分で自分を傷つけようとする行動が見られ、それまで治療が成功していない場合は、面接時にDES-T(タクソメトリー法による解離体験尺度)を使うのも効果的だと言われています。
DES-Tはその前にあったDESより信頼性が高く、簡便なものだとされています。
その例は、岡﨑順子が『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』で挙げています。
一部表記を変えて、引用しました。
1. 買った覚えのないものが部屋にあったことがありますか?
- 自分の身体が自分のものでないように感じられることがありますか?
- 気づくと、自分が来た覚えのない場所にいたことがありますか?
(P、14)
これに関して、イアン・ハッキングは1995年に『記憶を書きかえる――多重人格と心のメカニズム』にて、DESを取り上げています。
多重人格のアンケートには、印刷された質問に答える「自己管理型」と、面接官の行うマニュアルに基づいた一定の質問に答える「精査タイプ」があると言います。
DESは最初の方に当てはまりますが、DES-Tは面接時に質問されることから考えると、DESと違って後の方だと言えるでしょう。
先ほどDES-Tにある質問の例を挙げましたが、ハッキングは前に書いた本でDESの質問例として、次のものも挙げています。改行し、数字を付けて引用しました。
1. 嘘をついたとは思っていないのに、嘘つきだと非難されること。
- 自分の持ち物の中に見覚えのないものが見つかること。
- 自分では思い出せない何かをやったという証拠を発見すること。
- 結婚とか卒業といった、自分の人生の中で重要な出来事の記憶がないこと。
- あなたの知らない人が、あなたの名前を呼びながら近づいてくること。
- 友人や家族の一員が誰なのかわからなくなること。
(P、126~127)
前に挙げたDES-Tの質問例1と、この質問例2は同じ質問と言うことができます。
他の質問を比べてみても、似た雰囲気が感じられてきます。
DES-TはDESの当てはまる自己管理型より細かい精査タイプのアンケートであるものの、質問内容はDESと似ているかもしれないのです。
ハッキングはDESに対して、質問が率直過ぎることから本当の状態とは違う答え方をされてしまう、と指摘しました。
質問内容の似ているかもしれないDES-Tにも、そのことが言えるでしょう。
そして、ここに挙げたDESの質問例は、ハッキングいわく「多重人格の原型と言えるタイプについての、古典的観点を含んだ質問」です。
よく聞く多重人格のイメージですが、それはあくまで、このような観点でしかないと言えます。
- 人格交代の徴候・他の診断過程
《人格交代を確認する上での大切な徴候》
多重人格の診断では、交代人格の確認が重要とされ、次の徴候が見られる場合はその可能性があるとされています。
1. 見た目の変化
- 使う言葉や話し方の変化
- 生活習慣の変化
- 生理学的反応(利き腕、視力、脳波、痛感やアレルギー反応など)の変化
- 文字や絵のかき方の変化(日記のページが破られていたり、斜線などで消されていたりする場合を含む)
5に関して、本人にはそうした記憶がありません。
《確定診断》
この診断を受けるには構造化面接法が行われ、解離性障害面接基準(SCID-D-R)を満たす必要があります。
構造化面接法は、特定の人に対する評価や診断を目的とする「査定面接法」の1つです。
特定の情報を確実に得るために決められた順番・質問を行っていく方法で、「標準化面接法」「指示的面接法」とも呼ばれています。
面接では、得られた情報の客観性・信頼性が問題とされます。
そのため、この面接法ではあらかじめある条件が満たされていなければならないと言われています。
実際にはすべてが決まった内容で行われる「厳密な構造化面接」より、細かい部分で柔軟に対応を変える「半構造化面接」が用いられやすいです。
構造化面接法はより細かい種類に分けることができます。
多重人格の確定診断に使われる構造化面接法は「SCID(DSM-Ⅳ用構造化臨床面接)」の1つです。
この方法では質問文がマニュアルとしてあるものの、質問の尋ね方は面接官の裁量に委ねられています。
そのため、半構造化面接法に分類されることもあります。
《鑑別診断》
脳しんとうの後に起こった健忘など、器質性疾患(脳に何らかの障害が起こることにより、なる疾患)を鑑別するための脳波検査、MRIなどの身体医学的な検査は欠かせないとされています。
また、MMPI(ミネソタ多面人格目録)やロールシャッハ・テスト、TEG(東大式エゴグラム)などの心理検査は多重人格になっていることをほのめかす場合があります。
自分で自分を傷つけていないか身体検査の行われる場合もあるため、知っておいてもいいでしょう。
- 誤診に注意!
多重人格は他の精神的な病気を始め、違う病気にも見られる症状を持っています。
そのため、誤診を受けやすいのです。
中には、1人で24個以上の誤診を受けた方もいらっしゃいます。
「多重人格」という正確な診断を受けるには、数年かかると言われています。
多重人格の人が実際に受けた誤診例を、次に挙げました。
「解離に関して・症状・統合失調症との違い」の章にある「症状」で詳しくご紹介している、多重人格の症状それぞれへ関係してきそうな病気ごとに種類分けしています。
《解離性症状》
健忘症、ブラック・アウト(記憶喪失)
《情動・衝動の調節が不調》
季節性感情障害、感情障害、躁的うつ病、双極性うつ病、自殺企図、ヒステリー、気分変調症、神経症、物質乱用、摂食障害
《精神病に似た症状》
境界性人格障害、分裂性人格障害、統合失調症(精神分裂病)、人格障害、精神病、器質性精神障害(脳に何らかの障害が起こることによりなるもの)
《身体症状》
さまざまな程度の視覚障害(全盲を含む)、甲状腺機能障害、身体化障害、偏頭痛、心臓病、不眠症、側頭葉てんかん、性障害、失読症、仮性麻痺、聴力障害
これらから分かる通り、誤診された症状は多重人格に見られる症状と言えます。
誤診名によく取り上げられていた「統合失調症(精神分裂病)」との違いについては、「解離に関して・症状・統合失調症との違い」の章にある「多重人格と統合失調症の違い」や「多重人格・統合失調症の幻聴」で詳しくご紹介しています。
治療
- 目標・原則・治療の原型
過去の多重人格の治療では、解離した多重人格の融合・統合が大切な目標とされていました。
しかし、現在は「本人の今、直面している困難の解決」が大事とされています。
それぞれの自我同一性に協力して困難に立ち向かうよう自覚させ、統御できる能力を多重人格の人へ身に付けさせるのです。
中には、多重人格が人生を生き延びていくための手段であると考え、そのままでいたいと希望する人もいます。
治療の目標は本人が決めるものであり、その希望は治療する人に尊重される必要があるのです。
治療は原則として、個人での心理療法が行われています。
心的外傷(トラウマ)を扱う必要があり、治療が再外傷体験となる場合があります。
治療を受ける時は、このことに注意しておくといいでしょう。
治療する人の間でも、気をつけるようにされています。
そして、PTSD(外傷後ストレス障害)の治療過程に沿って行われることが多いです。
多重人格がPTSDと、強い関係を持っているためでしょう。
詳しくは、「原因」の章にある「虐待とPTSD」でご紹介しています。
この治療過程については、ジュディス・ハーマンが次のように分けています。
第一段階:安全の確立
第二段階:回想と服喪
第三段階:通常生活との再結合
(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、266 なお、元は「Herman,1992」)
これを元にして主張されている治療過程については、「治療過程」で詳しくご紹介しています。
- 注意されること1
《治療目標の選択と、進めるスピード》
実際に治療を体験した人達は「非常に辛い」と語ることが多かったです。
生き延びるために思い出せない場所に置いた心的外傷(トラウマ)は、細かく練られた治療に対しても大きな影響を与え得るのです。
治療する人は本人の状態に気を遣いつつ、治療目標や進めるスピードを決定します。
ただ、「非常に辛い」とした声から、治療に対して恐怖を抱くことは状態を悪化させるでしょう。
大切であるのは「どういう治療かあらかじめ、少しでも知っておくこと」です。
「非常に辛い」と語った人の中には、「あらかじめ知っておけばよかった」とも語っている人が結構いました。
なお、治療目標については「目標・原則・治療の原型」でも詳しくご紹介しています。
《交代人格の取り扱い》
治療する人は、各交代人格の取り扱いに違いを持たせるべきではないと言われています。
交代人格のあるままでいいとする人もいますが、ほとんどはこの状態を解決したい人でしょう。
そのため、交代人格が別の存在だと思わせるのではなく、「解離による困難の解消と統御能力をしっかり身につけさせること」が治療の目標となっているのです。
《蘇った記憶》
心理療法を始めると、多くは幼児期に受けた虐待の記憶を取り戻します。
これに関して、アメリカ精神医学会やオーストラリア精神医学会は、次の発表をしています。
1. 思い出せなくしてから長い年月が経っても、正確な記憶を思い出せる状態にすることはできる
2. 年月の経過によって記憶の正確さを検証できないため、一部の人が実際とは違う記憶を作ってしまっている可能性も否定できない
多重人格の人が外傷性記憶を語り始めた場合は、「患者の語る真実」として傾聴され、治療する人による真偽の確認や細部の究明は「治療行為」として合わないと言われています。
多重人格の人自身が、自分の記憶を再評価する余地を残しておくのです。
《家族との関わり》
多重人格になる原因の1つに、児童虐待が挙げられています。
これについては「原因」の章にある「虐待とPTSD」で詳しくご紹介しています。
児童虐待を起こしたのは、原家族の関係している場合があります。
そのため、原家族に対して反発や愛着、実際と違った認識の生じている場合もあるのです。
治療する人はもし可能であれば、家族と会うなどして本人との関係を改善していくよう努めた方がいいとされています。
- 注意されること2
「注意されること・1」では、次に挙げる4つの注意について詳しくご紹介しています。
《治療目標の選択と、進めるスピード》
《交代人格の取り扱い》
《蘇った記憶》
《家族との関わり》
《自分から「多重人格だ」と名乗って来院した人》
自分から「多重人格だ」と名乗って来院する人もいます。
多重人格は、解離性障害の1種です。
これについては「解離に関して・症状・統合失調症との違い」の章にある「解離と解離性障害」で詳しくご紹介しています。
解離性障害の原因となるような外傷性記憶は本来「健忘」されているため、語られにくいです。
また、多重人格の人は気づかれないよう、注意深く振舞っていることが多いです。
自分から「多重人格だ」と名乗って来院した人にも、受容的になって訴えを聞くようにされています。
その場合、薬物やアルコール摂取の影響・意識でも無意識でも、病気になることで他の何かを得ようとしていないかを踏まえて冷静に分析する必要があるのです。
コリン・ロスは多重人格の原因の1つに「虚偽性障害経路」を挙げていました。
なかったにも関わらず「ある」として、多重人格を作ってしまうのです。
訴訟が絡んでいる患者の場合は、とくにこのことに注意されています。
《やり過ぎなくらいの依存と退行の予防》
多重人格の人は余分な治療・身体的接触の要求、治療の時にした約束の違反を行うものもいます。
こうなるのはもともと、人間関係に悩みを抱えていたためです。
治療する人を他のものと比べものにならないような存在とみなし、やり過ぎなくらいに依存・退行したり、治療している人を「虐待している人」と考えたりすることがあります。
充分に治療計画を練って、本人と相談した上で進めたとしても、なり得ます。
何を伝えようとしているか判断し、何回も続く場合は治療全体を見直すこともあるのです。
考えるべきとされているのは「多重人格の人がもっともいい状態になること」であり、治療する人はいつも道徳的な基準に則る必要があると言われています。
《治療する人へのメンタルヘルス(精神衛生)への配慮》
治療の際は多重人格の人のみならず、治療する人の外傷性記憶も思い出されてしまう可能性があります。
このようなこともあるため、秘密を言わないでくれる仲間内で支え合う環境を作り、治療する人の、メンタルヘルスを保つよう配慮されることも必要です。
- 治療過程
多重人格の治療は、PTSD(外傷後ストレス障害)のものを原型としています。
ジュディス・ハーマンは、この治療を3つに分けました。
これについては、「目標・原則・治療の原型」で詳しくご紹介しています。
多重人格の治療過程は、次から書く通りです。
《第1段階:予備としての介入と安全の確立》
確定診断・告知・診断の共有を行います。
確定診断については、「診断」の章にある「人格交代の徴候・他の診断過程」で詳しくご紹介しています。
治療する人は概要を説明し、同意を得ます。
同意を得てから、治療は始まるのです。
多重人格の人と治療する人の間には、治療契約が結ばれます。
外傷体験は「自我の境界を無理やり破ったもの」とされていることが多いため、治療が同じものでないと理解してもらう必要があります。
「契約」という安全で堅固な枠組みで治療の詳細を決定することにより、本人を守るのです。
契約の内容は場合によってですが、面接に関してリチャード・クラフトとフランク・パットナムは「週2回の90分面接」を推奨しています。
契約書の署名は責任の取れる人格にさせ、それぞれに行動への連帯責任を自覚してもらいます。
お互いに日記や掲示板を利用し、コミュニケーションし合えるようにするのです。
このように、第1段階では早まった外傷想起をせず、安全確保から始められます。
《第2段階:回想と服喪による、心的外傷(トラウマ)の消化》
外傷性記憶を思い出し、消化していきます。
そのため、外傷性記憶によるさまざまな影響の表れる場合があります。
他の交代人格や他人のした体験と思ったり、混乱や激しい感情の表出があったりするのです。
現在の困難が語られる時、同じような外傷性記憶が思い出されることもあります。
治療する人は日常生活で起こるこのような危機的状況への、さまざまな対処法を身につけさせる必要があるのです。
それを踏まえて、本人を尊重した治療は外傷性記憶の意味を理解することへ進みます。
再外傷体験とならないよう、行われるのです。
治療する人たちも、語られる生育暦や外傷性記憶を「非常に辛いもの」と感じています。
その中で、「多くの辛い経験をしてきたのに、ここまで頑張って生きてきた事実」があると気づきます。
人一倍辛さを耐え抜いてきたと、自信を持っていいのです。
心的外傷の消化によって症状が改善され、訴えていた困難が解決するかもしれません。
ただ、2つのことに注意してください。
1. 「非常に辛い心的外傷を処理し、生き延びる手段」とも考えられる解離状態でなくなること
2. 低く自己評価する感覚や、人間関係を上手く築けず適応しにくいと感じる気持ちが残り続けるかもしれないこと
なお、訴えていた困難の解決が何かは、人によってです。
交代人格のいるままでもいいとする人など、人格を融合・統合する以外の状態で「解決」
とする人もいるのです。
《第3段階:社会へ新しい一歩を踏み出させる》
訴えていた困難が解決すれば、次に考えられるのが「本人と世界の新しい関係」です。
どうやって社会への1歩を踏み出していくかが話し合われるのです。
以上です。
治療を終えそうな人が心配することなく新たな1歩を踏み出せるよう、社会の整っている必要があります。
- 催眠療法
多重人格の治療には、催眠が有効とされてきました。
国際解離研究会(ISSD)は、その効果を次のように挙げています。
1. 突然起こったフラッシュバックを終わらせ、現実に気づかせる(催眠を解く)
2.次にセッションするまでに危機が起こっても、安定していられるよう自我を強化させる
3.激しい感情の表出を安全な表現に変えるトレーニング
4.心的外傷(トラウマ)から来る身体症状を和らげる
5. 人格を融合・統合する時に行う、「儀式」としての催眠
ただ、「悪影響を与える」とする指摘もあります。
実際とは違う記憶に間違ったラベルを貼ること・良くない幻覚や急激な外傷性体験を招くこと・本人が依存しすぎるようになり、回復への意欲を減退させることなどが起こるのです。
これらの出来事は、催眠のやり方が充分でなかったことから起こる場合もあります。
たとえば、最初に挙げた出来事はコリン・ロスが多重人格になる原因の1つとした「医原性経路」に関係しています。
この経路を起こさないよう、催眠下での誘導するような質問は避けられるのです。
充分な催眠をするために、催眠の効果と目的を的確に説明し、本人の同意を得て行います。危険性や限界を知った上で、催眠は慎重に行うべきとされています。
岡﨑順子は自分が使ったことのある催眠を用いた治療法として「自律訓練法」「呼吸法」「イメージ療法」「良性のトランス状態」を挙げています。
イメージ療法の例の1つには「ビデオ画面を操作することのイメージ利用」があり、画面に映る過去を自由に操作できるようにします。
操作できないと感じていた外傷性記憶の入りこみを、操作できるようにするのです。
芸術・薬物・集団心理・入院療法
《芸術療法》
多重人格の人の衝撃的な外傷体験は、脳でうまく処理されずに「映像」として留まっているとする説があります。
それを裏づけるかのように、外傷性記憶は「イメージの侵入」として訴えられることが少なくないです。
心的外傷(トラウマ)の消化を安全で効果的にするため、中井英夫は箱庭療法を薦めています。
岡﨑順子は「――――持ち運びのできる箱庭――――」(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、271)と言われているコラージュ療法を初め、スクイグル・風景構成法・自由画を用いたことがあると言います。
《薬物療法》
体の病気ではないのに、そのような症状が出る・激しい行動や交代人格の出現の抑制・不安・不眠を抑制するために薬は使われていますが、有効性は確立していません。
治療の中核となる心的外傷や多重人格状態は、薬で解消できないのです。
交代人格によって表に出やすい症状や薬の効果は異なり、薬物依存や自分を傷つける目的で薬を溜めこむ人格も存在します。
自分を傷つける行動に結びつかないよう、さらなる研究の望まれている状態であるのです。
《集団心理療法》
多重人格の治療におけるこの療法は、有効性が疑問視されています。
心を許せず、近づかなかったり近づけなかったりする人もいるのです。
それぞれに潜んでいる場を乱す可能性は、新たな可能性を切り開く力と紙一重になっています。
これは日常で人間関係を築く時、誰にでもあることです。
言い換えれば、新たな可能性を切り開く可能性も「事実」なのです。
本来、簡単に理解されない悩みを抱えている人には、同じ悩みを共有し合えるグループのあった方がいいです。
このため、「多重人格と向き合う」の章にある「多重人格の人同士のグループ」で、設置されたグループ例を2つ詳しくご紹介します。
この内、1つは現在も発行され続けている日本の交流機関誌です。
サイトへのリンクも、ございます。
細心の注意を払いつつ、集団心理療法の可能性は両面から考慮する必要があるのでしょう。
《入院療法》
多重人格の治療は基本的に外来で行われ、必要に応じて入院治療をするようにしています。
交代人格に代わることの影響から他の人とうまくいかない場合もあり、大変なことが多いと言われます。
そのため、きちんとした治療契約が必要とされるのです。
治療する人は改善の意欲を引き出させて自立できるようにさせること、多重人格の人は人格同士でルールを守ることが求められます。
- 多重人格の臨床像
1920年代以来にあまり見られなくなっていた多重人格の臨床像は、1970年代以降ふたたび多く報告されるようになりました。
ここでは、その像を詳しくご紹介します。
《年代と男女比》
多重人格は30代に多く見られ、男女比は約1:9と女性が圧倒的に多いと言われています。
ただ、本当はこれほどの差がないのではと指摘されているのです。
これについては「多重人格と現代社会」の章にある「多重人格と男女差」で、詳しくご紹介します。
《交代人格に関して》
交代人格のタイプでとくに多く見られるのは「子どもの人格」「さまざまな年齢の人格」「保護してくれる人格」「迫害する人格」です。
「異性の人格」もまた、多く見られます。
交代人格間での健忘は約94.9%で、多くは「健忘障壁」によって隔てられています。
ただ、幻聴などから少しでも、もう一方の存在に気づいていることが多いです。
交代人格は抑うつ状態や薬物依存、強迫性障害のような精神的なものを、それぞれに抱えている場合が多いです。
刺激への反応やアレルギー、薬の効果など生理的・身体的な反応も交代人格によって違います。
このことは薬物療法があまり行われない理由にも、関係しています。
《「問題」とされる行動・反社会的行動》
自殺しようとすること・自分を傷つけること・精神を活性化させる物質の乱用などが当てはまり、しばしば見られます。
とくに最初の行動は約72%見られ、内2.1%は亡くなっています。
他にも反社会的行動として犯罪行為や売春が見られ、刑に服していた場合もあります。
ただ、これらの行動が見られる人の割合は少ないです。
以上です。
多重人格の臨床像は多種多様な症状・「問題」とされる行動を示すことが特徴です。
このことはヒステリー神経症・解離タイプの神経症水準から、境界性人格障害や統合失調症(精神分裂病)に近い水準のものまで、幅広い度合いの多重人格が含まれていることを意味しています。
- 治療中・治療後の経過
国際解離研究会(ISSD)から1997年にされた報告によると、治療中・治療後の経過は次に引用した通りです。
なお、数字の表記を変更し、一部を省略しています。
1. 一部のDID(多重人格の別名「解離性同一性障害」の略称――こちらで書いた注)患者は、2~3年の集中外来治療後、内部の隔たりの感覚を減じ、比較的安定した状態に達した。
2. 大半の患者は症状の改善・回復まで確定診断後3~5年を要した。
3. 重篤なⅡ軸病理(人格障害や精神的な遅れ――こちらで書いた注)や、他の重要なcomorbid(併存している――こちらで書いた注)精神障害をもつ患者は、緊急時の短期入院措置を含め、6年以上の年月が必要である。
(『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』P、276~277)
引用した報告からは、治療に長い年月のかかることが分かります。
ただ、このことから治療に対して不安を抱くのは、状態を悪化させるでしょう。
大切なのは「どういう治療かあらかじめ、少しでも知っておくこと」です。
このことは、「注意されること・1」でもご紹介しました。
普段多重人格に関わっていない人も、このことを知っておいた方がいいでしょう。
一般に健忘や遁走などといった解離状態のそれぞれのエピソードについては治療後の経過がよいとされていて、治療が成功した場合はとくにそうなると言われています。
このようになって、初めて訴えていた困難を解決した本人は、自分が自身の人生における主人公になったような体験をするのです。
多重人格と現代社会
- 多重人格と記録伝達メディア
多重人格は小説・体験談・映画・テレビ・ドラマなどでも知ることができます。
しかし、これらのほとんどは典型的なタイプや間違ったイメージを覚えさせやすく、多重人格の人びとにでさえも「正しいイメージだ」と思いこませてしまうことがあります。
典型的なイメージで病気の特徴を説明すること自体は悪くないですが、誤用や例外を考える意欲の低下を招きがちなのです。
「こういうものだ」と簡単なイメージを持ってしまうと、意外なことにそれに惑わされやすいものです。
典型的なイメージは「実際に見られる平均的な多重人格」とは違い、多重人格の人びとが実際に抱く気持ちを教えてくれる訳ではありません。
例としては、次のことがありました。
1. はっきり症状の現れる多重人格が典型的なタイプとなったことで、実際に見られる平均的なタイプである「それほどはっきりした症状を現さない多重人格」の人が、診断に驚いた
2. おどろおどろしく描かれた多重人格への誤解が大衆のみならず、多重人格の人へも定着したことから、多重人格の診断を信じてもらえなかった
3. 実際は一部にしかない「犯罪者を初めとした残虐で危険な人」が多重人格の人全体にあるイメージとして定着しやすいのが原因で、危険な人と誤解される
4. たいてい「罰や患者の意思に反して行われる」とされたり、苦痛なものとして描かれたりしやすい「ショック療法」を受けたが、前後に手厚いケアを施され残酷なことは何もされなかった。
頭の動きが鈍くなった感じはしない
記録伝達メディアは1つの例を強調し過ぎることとなり、実際の状況に逆効果を及ぼしてしまいやすいのです。
これはいつの時代も避けられないことで、これからも最新の理論を反映し起こってしまうだろうと指摘されています。
「知識を集めることの限界」にも、つながっているでしょう。
このことや例外を意識することについては「多重人格と向き合う」の章にある「知識を集める」、「多重人格の人への接し方」の章にある「言葉に気をつける」「状況は人それぞれ」でもご紹介します。
ただ、記録伝達メディアがより多くの人びとへ多重人格を意識させ、新しい観点を与えてくれているのも「事実」です。
『多重人格者の心の内側の世界――154人の当事者の手記』では、次のような本があればいいとある方が書いています。
1. 優しい言葉を使い、多重人格を説明している
- 同じく多重人格にかかっている他の人の経験を共有でき、1人でないと感じられる
- 試しにやってみるものであるとしても、進んでいくだろう治療段階を教えてくれる
4. 交代人格の起こすトラブルへ対処する方法を、簡単に説明している
もしかしたら、出された条件に当てはまる本はこれの書かれていた本自体かもしれません。
この本については、「多重人格と向き合う」の章にある「体験談を読む」で詳しくご紹介します。
- 多重人格と文化
「多重人格は文化特有の症候群か」の議論がなされています。
リチャード・クラフトはオランダ・ノルウェー・トルコなど複数の国を調べても同じような発症率であり、文化特有の症候群ではないとしています。
一方、「インドの発症率が少ないのは、多重人格と似た憑依状態が文化に強く根づいているため」とする指摘もあり、『DSM-Ⅳ』(『精神障害の診断・統計マニュアル』第4版)には「アメリカでは近年、発症率の高くなっていることから文化特有の症候群では」と書かれています。
日本では、多重人格の報告が少ないほうだろうとされています。
その理由の1つとして挙げられているのが「日本文化との関連」です。
報告は少ない方とされていますが、日本で行われた最初の報告は世界規模で一旦研究の衰退し始める、1920年代頃すでにありました。
1917・1919~1926年、中村古峡の主宰していた雑誌で行われたのです。
日本は「本音と建て前」の文化を持ち、インドのように「憑依状態」へ強い馴染みを示しています。
多重人格に似たことが「文化」として人びとに根づいていることから、発症が抑えられているのではと指摘されているのです。
また、多重人格と憑依状態は「個人の事情からなる状態と文化に依存してなる状態」、「治療の必要な症状に苦しんでいる状態といない状態」に区別できるとされています。
最後に、「儀式的虐待」について詳しくご紹介します。
多重人格であることによって「オカルトの生贄」となり、ふたたび受ける場合や関係者が本人の交代人格や多重人格だと気づいていない他のオカルト参加者から、虐待される可能性もあるといいます。
このことにも、注意するといいでしょう。
ただ、あくまでも「そのような場合もある」であり、「必ずなる」「高い可能性でなる」とは書いていません。
多重人格と男女差
「多重人格になった人の男女比は1:9」という臨床像があります。
しかし、本当は同じ比率だと指摘されています。
この問題はたいへん昔から存在しましたが、必要とされているほど議論は起こっていないといいます。
イアン・ハッキングは『記憶をかきかえる――多重人格と心のメカニズム』で議論から出された説や、18世紀から現在になっても見られる次の特徴を紹介しています。
1. 多重人格と診断を下された人はほとんど女性
- 交代人格の1つは本人の年齢より若く、普通は子どもの姿をしている
- 性に関して、対になる気持ちを同時に抱え持っている
議論から出された説やこれらの特徴には、「社会の要求する男女のイメージ」が反映されています。
多重人格状態から新たな生き方を見出し、イメージから解放される女性もいるようです。
ハッキングはこの問題が、フェミニストの立場から議論されるべきだとしています。
『多重人格者の心の内側の世界――154人の当事者の手記』には、ある男性多重人格者の意見があります。
交通違反さえしたことのない、道徳心のある方です。
多重人格や身体的・性的虐待、近親姦が原因で治療を受けている人について描いたものはほとんど、被害者や生存者を「女性」と想定していると言っています。
サポートグループに「女性のための」と貼り紙されていたり、「育てなおし(リペアレンティング)」や退行を促す作業時に暴力や性的な何かが入ってくると考えられたことから、治療する人に男性の多重人格者が引き受けられなかったりすることがあるようです。
このような男女差について書かれた出版物はありますが、それは女性によって書かれ編集され、女性が対象になっていると書いています。
多重人格・虐待・近親姦についての統計やそれらの発表方法、セルフヘルプの本やグループなどの内容は男性多重人格者の典型的なイメージを作り出し、実際の状況に悪影響を与えているとしています。
同時に、社会で言われている「強くあれ」という男性へのイメージが、治療する人へ援助を求めることを抑えてしまうのです。
多重人格は男女同じ比率でなるものと考えられ、社会の要求する男女のイメージによる悪影響を受けています。
男性多重人格者の立場から考えられた何かも、議論ではもっと必要でしょう。
多重人格と向き合う
- 自分で知識を集める
「あらかじめ、知っておけばよかった」と言う多重人格の人が、何人も見られます。
あらかじめ、誰かが知識を頭に貯めておく必要があるでしょう。
「誰か」には、多重人格の人自身も当てはまります。
多重人格になっていない人が知識を集めることについては「多重人格の人への接し方」の章にある「状況は人それぞれ」でも、詳しくご紹介しています。
多重人格の人自身が知識を集めなければならないことは、たくさんあるでしょう。
もしできるようであれば、集めておいてもいいです。
手段の代表的なものとしては、インターネットや本が挙げられます。
こちらの経験からすると、活用できる知識のタイプは次の4つです。
1. 簡単な言葉で説明されている、基本的な知識
2. 難しい言葉で説明されている、基本的な知識
3. 簡単な言葉で説明されている、専門的な知識
4. 難しい言葉で説明されている、専門的な知識
この内、活用しやすいのは1・4ですが、2や3の中にも役に立つ情報があるため、注意してください。
他にも、インターネットや本を含めた記録媒体メディアが1つのタイプを強調し過ぎてしまうこと、集めたり貯めたりできるのに限界があることに気を付けてください。
これらについては「多重人格と現代社会」の章にある「多重人格と記録媒体メディア」、「多重人格の人への接し方」の章にある「状況は人それぞれ」で、詳しくご紹介しています。
「多重人格の図書館本」の章にある「おすすめ本・参考文献」を、参考にするのもいいでしょう。
- 体験談を読む
知識を集めたい時、学術書を初めとした「勉強するように集める方法」のみならず、「体験談を読んで集める方法」もあります。
最初の方法で集めた知識は感じ方の個人差によるズレを少なくした「客観的な知識」、後の方法は客観的な知識から得にくい「実際の状況に関する知識」が多く得られます。
この内、より集めにくいのは「実際の状況に関する知識」の方です。
客観的な知識は感じ方の個人差が少ない分、多くの場所で共通した知識を得られますが、実際の状況に関する知識は個人差が大きいため、さまざまな場所を見なければいけません。
ある特定の知識を集めるためにかかる時間が、違うのです。
客観的な知識は、体験談からも集められます。
そのため、本当は体験談を読んで知識を集めた方がいいのかもしれません。
しかし、インターネットや本も含めた記録媒体メディアは、1つのタイプを強調し過ぎてしまう危険性をつねにはらんでいます。
このことは、体験談の持つ「感じ方の個人差が大きい」という短所をより悪いものにしてしまうのです。
以上の経緯から、体験談を読む方法より勉強するように集める方法がいいとされているのです。
それでも、実際の状況に関する知識が忘れられてしまうことは避けられません。
できる限り多くの人が書いている体験談を、1つにまとめた何かが必要でしょう。
当てはまりそうな例を、ご紹介します。
バリー・M・コーエンほか・編著/安克昌・訳者代表/中井久夫・序文『多重人格者の心の内側の世界――154人の当事者の手記』(2003年2月 作品社)です。
原典はアメリカの多重人格者や関係者の声を集めた本で、書かれたものをジャンル分けした構成になっています。
日本語訳版では、最後に日本の多重人格者たちの声を加えています。
多重人格自体やそれに関する用語解説、歴史を初めとした関連事項の説明もあります。
さらに、本作りに携わったスタッフについての説明や、体験談を出した人の索引もあります。
他にも、「多重人格の図書館本」の章にある「おすすめ本・参考文献」で、何冊かの本を詳しくご紹介しています。
- 多重人格の人同士のグループ
「治療」の章にある「芸術・薬物・集団心理・入院療法」では、集団心理療法が多重人格の治療には合わないことを詳しくご紹介しました。
ただ、グループを作る大切さを主張している人びともいます。
その人びとの言う通り、本来簡単に理解されない悩みを抱えている人には、同じ悩みを共有し合えるグループのあった方がいいです。
このため、グループ例を2つご紹介しておきます。
《多重人格組合》
1993年、アメリカのある病院にあった集まりから組織された団体です。
イアン・ハッキング・著/北沢 格・訳『記憶を書き換える――多重人格と心のメカニズム』(1998年4月 早川書房 ※原典は1995年の発行)に書かれた時点では、非営利団体として法人化されていました。
当時の活動例は「社会へ戻るために準備する、一時的な住居の設置」「旅行の企画」「子どもの交代人格の現れる機会を与える「懇親会」」が行われていました。
《FLOCK通信》
1998年、兵庫県でB4サイズ1枚の紙から始められた交流機関誌です。
多重人格の研究や治療、関連活動に大きく貢献した安克昌の協力も得ました。
直接会うことから起こるトラブルに配慮し、「顔が見えない通信」を作ることにしたようです。
2011年1月現在も発行されていて、サイトも存在します。
サイトはこちらから。
役立つ関連サイトへのリンクもございます。
バリー・M・コーエンほか・編著/安克昌・訳者代表/中井久夫・序文『多重人格者の心の内側の世界――154人の当事者の手記』(2003年2月 作品社)には、作り始めた細かい経緯や掲載された内容などが載せられています。
多重人格の人への接し方
- 言葉に気をつける
多重人格に対して悪いイメージを持っている場合は、まずそれをなくしていく必要があります。
境界性人格障害 分裂性人格障害 統合失調症(精神分裂病)
これらには「境界」「分裂」と、多重人格に対して持たれやすいイメージが含まれています。
どう区別すればいいかは、詳しい情報がなければ分かりません。
何の情報も知らず、名称のみから中身を推測することは難しいのです。
多重人格の人も他の精神的なものを抱えている人と同じく、間違ったイメージによって苦しむことが多いです。
正しい診断を受けるのさえ数年かかるかもしれず、訴えている困難を解決できない間不安でたまらないでしょう。
誰しも、人生で1度や2度は、どうしようもないくらい辛いことに遭うものです。
その時、これまで信頼していた人に「面倒臭いから」と離れられたら、どう感じますか?
多重人格の人はもともと、人間関係をうまく築けていない場合が結構あります。
名称など、少ない情報や昔からある間違ったイメージにとらわれて離れていくのは止めるべきです。
同じく、接する時のささいな言葉にも気を遣うといいでしょう。
たとえば、励ましの言葉としてよく使われる「頑張れ」は、人や時によって逆にプレッシャーを与える場合があります。
「今でも充分頑張っているのに、それ以上何を頑張れというの!?」のように。
「たまには休んでいいよ」と言った方が、この場合は良かったでしょう。
もちろん「障害」「精神病」など、他の人へ悪いイメージを与えるような言葉は使わないようにしましょう。
- 病院には行けない本人へ
臨床側によると、多重人格は30代の人に多く見られると言われています。
あくまでも「多く」であり、実際は違う年代にも見られるでしょう。
他の章で、多重人格の診断や治療にについて詳しくご紹介してきました。
もし多重人格になっている人の経済的状況が安定していない場合、病院に行くことさえ大変なのです。
多重人格の場合は正しい診断を受けるだけで数年かかるかもしれないので、その分必要となるものが増えます。
こうなる原因には心的外傷(トラウマ)、中でも児童虐待が関係していることが多いです。
自分ではなく、他の人が原因で余計な負担をしなければならないのです。
ここに、普段は多重人格に関係していない人からの間違ったイメージを負わされると、相当な負担を感じます。
他の人から与えられる負担を除いても苦しみは大きいのに、これでは自殺したいと思ったり、自分を傷つけたりしたくなります。
このような行動は多重人格の症状に挙げられていますが、もともと出ていなかった場合は普段関係していない人が、症状を作ってしまうことにもなりかねないのです。
多重人格の人、とくに病院に行くことさえできない人にはこのようなことを考慮して接するといいでしょう。
できない人たちも、生き続けていく力を得られる環境作りが大切です。
- 状況は人それぞれ
多重人格を正しく理解するためには、本人もそれ以外の人も関連知識を集めるといいでしょう。
ただ、それには限界があることをあらかじめ知っておくべきです。
実際になっていなければ分からないものや予想外の事態は、いくら勉強していても「できる限り予想する」ことしかできないのではないでしょうか。
起こった時、どう対応するかを前もって考えておきましょう。
それでも、実際に遭遇して混乱した場合は考えておいた対応が、うまくできない場合もたくさんあります。
混乱した時、早めに落ち着ける方法を見つけると、日常の多くの場面でもきっと役に立つでしょう。
同じ「多重人格」でも、状況は人それぞれです。
さらに言うと、同じ人でも状況はその場所その時によってまったく違ってきます。
普段から多重人格に関わっている人同士でも、関連する言葉の扱いはお互いに違っているでしょう。
自分がいいと思って言ったことが相手を傷つけてしまったり、自分が伝えたかった度合いを相手がそれほど理解してくれなかったりするのです。
どう受け止めたか度合いも分かるよう話し合えたら、非常にいいのですが。
日常でも、なかなかできません。
相手が多重人格の人で自分がそうでない場合は、自分から感じていることを積極的に、たくさん話せるといいでしょう。
多重人格の図書館本
- 図書館本の探し方
情報を集めるには、インターネットや本が効果的でしょう。
ただ、インターネットの利用できない人は現在でもたくさんいますし、本を買うのは時間とお金がかかります。
このような時、もっともいい方法が「図書館の本を読むこと」でしょう。図書館の本を探すには、機械でのキーワード検索が1番です。
インターネットの利用できる人は、図書館へ行きたい場合前もって検索しておくのもいいでしょう。
キーワード検索する際、何をキーワードに使うかはたいへん重要です。
たとえば、こちらが選んだ参考文献の1つ『臨床心理学大系 第19巻 人格障害の心理療法』は「多重人格」でキーワード検索しても出てこないでしょう。
しかし、「人格」で検索したり多重人格が「心理学」に関係したものと知っていたりすれば、この本に出会える可能性はあります。
ただ、この本には次から書くような、別の方法で出会ったのです。
1. 共通していそうなテーマ番号を見つける
最初に、図書館の機械で「多重人格」とキーワード検索しました。
その時、キーワードに使えそうな言葉を探したり、参考になりそうな本のデータを印刷したりもしておきます。
ただ、この時は多重人格の別名「解離性同一性障害」をキーワードに使っても、本は1冊も見つかりませんでした。
1番注目したのは「請求記号のもっとも上にある番号」です。
多くあり共通していそうな番号を見つけ、その番号の本が並べられているところへ行きました。
2. 目をつけた番号の本を見る
目をつけた番号の本を、片っ端から探しました。
次の段階でもそうですが、必要かを見極める時は目次を見るといいです。
本に出てくる言葉の索引がついているのは、便利です。
できれば、目をつけた番号の本は全部見た方がいいでしょう。
本に出てくる言葉の索引がついているのは、便利です。
この方法によって、参考になりそうな本を2冊選び出しました。
ただ、借りて家に帰った後で実際に読んだところ、1冊は必要でなかったと分かりました。
このようなこともありますので、要注意です。
3. 目をつけた番号の周辺を見る
これは、非常に大事です。
実際、参考文献11冊の内7冊はこの方法から見つけ出しました。
多重人格に関連していそうな言葉や、関連分野の辞典・事典がないかに注意して探したのです。
辞典・事典は短い説明で載せられている場合が結構あり、専門用語を突然調べなければいけなくなった時にも便利です。
「参考図書」のコーナーにも辞典・事典があるため、時間に余裕のある場合はここを見るのも1つの手でしょう。
シリーズ本も同じ理由で、便利なものです。
このようにして、わたしは参考文献を選び出しました。
参考文献の詳しいデータは「おすすめ本・参考文献」でご紹介しています。
また、別の方法として他に「図書館員に聞く方法」があります。
専用コーナーが設置されている場合もあるため、気軽に聞いてみるといいでしょう。
- 多重人格の図書館本は?
請求記号のもっとも上にある番号は、本のメインテーマを表しています。
必要な図書館本を探す時は、ここを参考にすると便利です。
では、多重人格の図書館本はどうなのでしょうか?
多重人格に関連する言葉は検索時役立ってくるかもしれないため、調べる過程で出た言葉も詳しくご紹介します。
こちらが実際に図書館の機械で調べた時は「145.8」が多く見られました。
そのため、『基本件名標目表(BSH)第4版』でメインテーマ「多重人格」を表す番号かどうか、調べてみたのです。
これは図書館関係の勉強をする時、必要になってくる本です。
請求記号の表す、本のメインテーマを調べたい時はこの本を使うといいでしょう。
ただ、「本のメインテーマ」として独立した項目の設置されていない場合も結構あるため、要注意です。
多重人格は独立した項目があり、「141.93」と「145.8」が当てられていました。
「141」はメインテーマ「普通心理学・心理各論」、「145」は「異常心理学」を表す番号でした。
多重人格に関連する言葉はないか、先ほどの本とセットになっている『基本件名標目表(BSH)第4版 分類体系順標目表・階層構造標目表』と合わせて調べてみました。
すると、「心理学」「倫理学」「人格」の言葉が関連していそうだと分かりました。
系統立てて考えると、「心理学」「倫理学」から細かく分かれている項目の中に「人格」があり、さらに分かれている中に「多重人格」があるのです。
こちらが実際に調べた経験も合わせると、結果は次のようになります。
《多重人格を表す請求記号中の番号》
141.93と145.8
《関連していそうなメインテーマ・言葉》
心理学(請求記号中の番号(以下同じ)、133)・普通心理学(141)・心理各論(141)・異常心理学(145)・倫理学(240)・臨床心理学・人格
※ただ、こちらが実際に調べた時は「倫理学」のところへ行きませんでした。
この結果と合わせて「おすすめ本・参考文献」で詳しくご紹介している本から、使えそうな、多重人格に関する言葉を見つけてもいいでしょう。
- それでも……
「図書館本の探し方」ではキーワード検索や請求記号のもっとも上にある番号を元にした検索、「多重人格の図書館本は?」ではメインテーマ「多重人格」につけられた番号や多重人格に関連しそうなメインテーマ・言葉を詳しくご紹介しました。
しかし、それでも必要な図書館本はまったく別のところにある可能性もあるのです。
あり得そうな例を、1つご紹介しましょう。
請求記号のもっとも上にある番号は、本のメインテーマを表しています。
図書館関係の勉強をする時必要になる『日本十進分類法新訂8版・9版本表対照表』によると、次のような番号があります。
934 メインテーマ「評論・エッセイ・随筆」
935 メインテーマ「日記・書簡・紀行」
936 メインテーマ「記録・手記・ルポタージュ」
「多重人格と向き合う」の章にある「体験談を読む」で詳しくご紹介した『多重人格者の心の内側の世界――154人の当事者の手記』は「手記」と書いてありますが、こちらの行った図書館ではメインテーマ「多重人格」につけられる番号の1つ「145.8」が当てられていました。
ただ、請求記号は定められた方法・実例を元に「それぞれの図書館が決める」ため、ばらつきの出てしまう場合があるのです。
エッセイや日記、手記は探したいメインテーマにつけられた番号の本が並べられている場所から、見えない範囲にあるかもしれません。
共通していそうなテーマ番号を見つけたからと検索結果の閲覧を途中で止めず、最後まで見るようにするといいでしょう。
- おすすめ本・参考文献
《おすすめ本・参考文献の詳しいデータ》
フランク・パットナム・著/安克昌・中井久夫・訳/金田弘幸・小林俊三・共訳
『多重人格障害――その診断と治療』
2000年11月 岩崎学術出版社
……参考文献のあちこちで紹介されていた本です。
原典が役に立ったと、アメリカのある多重人格者が書いています。
河合隼雄ほか・編
『臨床心理学体系 第17巻 心的外傷の臨床』
2000年8月 金子書房
……参考文献①。一丸藤太郎「多重人格(解離性同一性障害)と幼児虐待」の章を参考にしました。
多重人格を巡る状況は、第19巻よりこちらの方が幅広く紹介されているでしょう。
「多重人格って何?」の章にある「古典的・現代的多重人格」でご紹介したこれらの多重人格タイプについて詳しく知りたい場合は、この本です。
馬場禮子・福島 章・水島恵一・編
『臨床心理学体系 第19巻 人格障害の心理療法』
2000年11月 金子書房
……参考文献②。
岡﨑順子「解離性同一性障害の心理療法」を参考にしました。
診断と治療について、多めに書かれています。
とくに、治療方法については具体例もあり、参考になるでしょう。
安香宏ほか・編
『臨床心理学体系 第20巻 子どもの心理臨床』
2000年6月 金子書房
……参考文献③。
平田美音「子どもの精神病」を参考にしました。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)について、書かれています。
中島義明ほか・編
『新・心理学の基礎知識』
2005年1月 有斐閣
……参考文献④。
和田秀樹の書いた項目「多重人格について児童虐待との関連から説明せよ」を参考にしました。
項目執筆者の氏名は、他の参考文献でも挙げられていました。
イアン・ハッキング・著/北沢 格・訳
『記憶を書き換える――多重人格と心のメカニズム』
1998年4月 早川書房 ※原典は1995年の発行
……参考文献⑤。
多重人格を取り巻く問題を1つ1つ深く追究していて、新たな観点を与えてくれます。
バリー・M・コーエンほか・編著/安克昌・訳者代表/中井久夫・序文
『多重人格者の心の内側の世界――154人の当事者の手記』
2003年2月 作品社
……参考文献⑥。
「多重人格と向き合う」の章にある「体験談を読む」で、詳しくご紹介しています。
また、同章にある「多重人格の人同士のグループ」では、この本に載せられていた現在もある日本の交流機関誌を詳しくご紹介しています。
サイトのリンクもございます。
坂野雄二・編
『臨床心理学キーワード[補訂版]』
2005年10月 有斐閣
……参考文献⑦。
おそらく、「辞典」(言葉の意味を解説した「じ」典)ではなく「事典」の類です。
各項目が、短めの説明でまとめられています。
携帯しやすい小ささが、たいへん便利です。
山下恒男
『日本人の「心」と心理学の問題』
2004年10月 現代書館
……参考文献⑧。本の題名になっている問題を、多角的に分析しています。
「多重人格と現代社会」の章にある「多重人格と文化と儀式的虐待」で少々触れた、日本で最初に行われた多重人格の報告について詳しくご紹介されています。
他にも、日本で行われた多重人格裁判の例が、書かれています。
他の参考文献にはないような、独特の観点を与えてくれる本です。
日本図書館協会件名標目委員会・編
『基本件名標目表(BSH)第4版』
『基本件名標目表(BSH)第4版 分類体系順標目表・階層構造標目表』
両方、1999年7月 日本図書館協会
……上が参考文献⑨、下が参考文献⑩。
セットになっている、大きめの参考図書です。
「多重人格の図書館本」の章にある「多重人格の図書館本は?」で詳しくご紹介しています。
巌 礼吉・編著『日本十進分類法新訂8版・9版本表対照表』
1998年4月 日本図書館協会
……参考文献⑪。
大きめの参考図書です。
上の参考文献と同じ場所で、詳しくご紹介しています。
こちらで紹介した知識や実際の状況、本はあくまで「ほんの一部」です。
「膨大に」例外があることを、忘れないようにしましょう。
参考文献使用先
※番号は、「おすすめ本・参考文献」で参考文献に割り振った番号です
「多重人格って何?」
・病名の変化 ①④⑤
・古典的・現代的多重人格 ①⑥ ※⑥は「交代人格」に関する用語解説した箇所にのみ
「解離に関して・症状・統合失調症との違い」
・解離と解離性障害 ②③④⑥
・症状 ①②
・多重人格と統合失調症の違い ①②⑤
・多重人格・統合失調症の幻聴 ②
「原因」
・クラフトとロスの説 ①②
・虐待とPTSD ①③④⑥⑦
・説の不確定性1 ⑤
・説の不確定性2 ②③⑤
・心的現実と心的外傷 ①⑤
「診断」
・『DSM-Ⅳ』の診断基準 ①② ※②は診断基準の引用のみ
・発病率と特有のアプローチ ①②
・アンケートによる診断 ②⑤
・人格障害の徴候・他の診断過程 ②⑦
・誤診に注意! ①⑥
「治療」
・目標・原則・治療の原型 ②
・注意されること1 ②
・注意されること2 ②
・治療過程 ②
・催眠療法 ②
・芸術・薬物・集団心理・入院療法 ②
・多重人格の臨床像 ①
・治療中・治療後の経過②
「多重人格と現代社会」
・多重人格と記録媒体メディア ⑤⑥⑧
・多重人格と文化と儀式的虐待 ①⑤⑥⑧
・多重人格と男女差 ①⑤⑥
「多重人格と向き合う」
・自分で知識を集める ⑤⑥
・体験談を読む ⑤⑥
・多重人格の人同士のグループ ⑤⑥
「多重人格の人との接し方」
・言葉に気をつける ①②
・病院には行けない本人へ ①②
・状況は人それぞれ なし
「多重人格の図書館本」
・図書館本の探し方 なし
・多重人格の図書館本は? ⑨⑩
・それでも…… ⑨⑪